Photo Stories撮影ストーリー

インド、北カシミールの村ミラマ。有力政治家サキナ・ヤトゥー氏襲撃事件に巻き込まれて死亡したナズ・バヌさんの葬儀で、悲しみに暮れる遺族。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)

「美しさを超えたもの」を伝える、人々を結ぶ写真10点

2016.08.19
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 写真家のエイミー・ビターリ氏が、その思慮深い目でとらえるテーマは文化や動物、国際情勢だ。彼女の写真は、世界に存在する様々な問題を伝えながら、見る者の感情に訴えかける。何が彼女をそこまで突き動かすのか聞いた。

ケニア中央部レワ野生生物保護区にすむサイの孤児たち。飼育員ユスフが頭をのせている子サイの母親は、オルペジェタ自然保護区で密猟者たちに殺された。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)
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――これまで撮影したなかで、初めて自分にとって大切だと思った写真は何ですか。

 西アフリカのギニアビサウ共和国へ行った時のことです。内戦後の状況を伝えるため、当初は2週間ほど滞在する予定でした。それが数カ月になり、さらに半年にまで延びてしまいました。そこで目にしたものは、戦争や飢餓のアフリカではなく、また理想化されたサファリや珍しい動物たちのいる世界でもありません。全く別の世界が、そこにはありました。

 滞在中は、地元の言語であるプラー語を学び、水を運び、焚き木を集め、地球上の多くの人々が送っている日々の生活を体験しました。女性たちの間で、私はまったくの役立たずでした。子どもも夫もいない。料理もほとんどできない。井戸から水をくみ上げることすらできません。

 私が撮影していたのは映画だったので、どんな写真が撮れていたかは分かりませんでしたが、帰国後に改めて見てみると、どれもセンセーショナルな新聞の見出しをはるかに超えた、この国の真実を伝える写真ばかり。自分にとって大切だと思える写真に初めて出会ったのは、この時でした。私のふだんの生活とは大きくかけ離れていましたが、それほど意外とも思いませんでした。むしろ、思っていた通りというか。何よりも驚いたのは、私たちとの共通点がとても多いということです。帰国する前日の夜、降り注ぐような星空の下で子どもたちと座り、夜更けまで話をしました。翌日には国へ戻るのだというと、アリオという名の少年が、アメリカには月があるのかと聞いてきました。今でも、満月を見ると彼のことを思い出します。あれが、私にとって人生のターニングポイントとなりました。それからは、私たちの間にある違いではなく、共通したものに光を当てていこうと思うようになったのです。

西アフリカのギニアビサウ共和国で、体を洗う少年アリオ・バルデ。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)
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米国モンタナ州南部のセンテニアル・バレー。11月のある晴れた日、J・バー・L牧場で牛を放牧するスティーブン・ベックランド氏と犬のマックスとエリー。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)
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――もし写真家になっていなかったら、何になっていたと思いますか。

 途方に暮れると思います。これほどの豊かさをもたらしてくれる仕事を、他に思い付きません。ただ、写真家として成功しなかったら、学校へ戻って獣医になるための勉強をしようとは考えていました。

――あなたに最も影響を与えた人物は誰ですか。

 仕事を通して出会った人々です。彼らこそ真の英雄であり、この世にまだ善いものがたくさん残っていることを教えてくれます。

インド、グジャラート州アーメダバード。学校の外に設けられたダリヤ・カーン・グームナト・ラハト難民キャンプに滞在するイスラム教徒の少女たち。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)
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中国四川省にある中国パンダ保護研究センターの碧峰峡パンダ基地。飼育員が世話をするのは、生後2カ月のジャイアントパンダの赤ちゃん。参考記事:パンダを野生の森へ(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)
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――写真への情熱をかき立てるものは何ですか。

 初めの頃、写真は新しい文化について学び、体験させてくれるパスポートでしたが、今はそれ以上のものです。文化や地域社会、国を超えた意識や理解を生み出してくれる道具です。この世界を共有する私たちの間には、多くの共通点があることを教えてくれます。言葉が通じなくても、写真には人々を瞬時につなぐ力があります。一目見ただけで、写真はすぐに何かを感じさせられます。

 私は人をつなげ、ひらめきを与えるような物語を伝えることに力を注いできました。写真家としてのキャリアは、紛争地帯で始まりました。当時は誰よりも劇的な写真を持って帰ることで頭がいっぱいだったのですが、すぐにそれだけではだめだと気付きました。お互いの物語を本当に理解すれば、私たちは変われる。そしてどこへ行こうとも、人間の感情は同じなのです。

かつてのブータン国王の本拠地だった城トンサゾンの大扉を開く僧侶。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)
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ケニアのレワ野生生物保護区で、絶滅危惧種のクロサイを世話するジョン・カマラ氏。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)
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――完璧な写真とは何だと思いますか。

 技術的に美しい写真はたくさん見てきました。どこをとっても完璧な写真。でも、私にとっては、美しさ以上のものが必要です。写真には魂がなければなりません。何かを考えさせてくれるもの、その背景に意味を含むもの。また、複数の写真がひとつになって何かを伝えているものもいいと思います。素晴らしい写真とは、1枚の完璧な写真とは限りません。視覚的にストーリーを語るとは、1枚の完璧な画を撮ることとは違います。複数の写真が連携しあって、その土地や文化についての理解を生むものでなければなりません。

――現地へ行った時最も大切な持ち物は何ですか。

 カメラやレンズが写真を撮るのではありません。それをするのは写真家です。最新鋭の機材を持ちたいと思う人は多いでしょうけれど、私にとって最も大切なのは、素朴さ、そして共感する心です。共感する心は、創造力の源となります。

インド、カシミールのバドゥガム地区で葬儀に集まった村人たち。ある一家から金をゆすり取ろうとした男の手の中で手りゅう弾が爆発し、5人が死亡、48人が負傷した。(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)
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中国四川省の臥龍(ウォロン)自然保護区内にある保護センターで、柵に囲われた自然のままの森でくつろぐ16歳の雌のパンダ曄曄(イエイエ)。「日」と「華」が組み合わさったその名は、日中両国の友好を表す。参考記事:パンダを野生の森へ(PHOTOGRAPH BY AMI VITALE)
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――新人の写真家へアドバイスするとしたらどんなことでしょうか。

 自分が心から大切に思い、それに何年も費やすことのできるプロジェクトを見つけることです。そしてそれを自分のものにすること。他の人には真似できない特別なものにすることです。人が気に入るだろうと思いながら写真を撮らないこと。心から撮りたいと思った写真を撮り、自分のスタイルと情熱を見つけてください。

 写真家エイミー・ビターリが担当した特集「自然と人間 パンダを野生の森へ」が、ナショナル ジオグラフィック2016年8月号に掲載されています。

文=National Geographic Staff/訳=ルーバー荒井ハンナ

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