Photo Stories撮影ストーリー

世界の老樹、圧倒的な存在感

2016.06.28
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 地球上には3兆本を超す数の樹木がありながら、彼らの物語を私たちはほとんど知らない。もちろん、全ての木は重要な役割を果たしている。空気を浄化し、鳥や動物にすみかを提供し、子どもたち(と、子どもの心を持つ人たち)に木登りの方法を教えてきた。だが、中にはそうした営みを他の仲間よりもずっと長く続けてきた木々がある。例えば、アロエディコトマの樹齢は長いもので300年に達する。オークは千年、そしてイガゴヨウマツ、イチイは数千年も生き続ける。

ベイスギ、学名Thuja plicata、英ウェールズ
「金色の林」を意味するゲスリ・アイルの植物園には、樹齢を重ねた印象的な標本木のコレクションがある。だが、何本もの幹を持つベイスギの大木ほど壮麗なものはない。1863年に植えられたとされている。(Photograph by Beth Moon)
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 1999年、写真家のベス・ムーン氏は、樹齢を重ねた木を記録していく役目を自らに課した。中でも彼女は、「抜きんでた大きさ、伝統あるいは民間伝承を持つ」老木を探した。まるで宝探しの旅だった。「実に多くの老木が伐採されています。組織的な保護活動があるからこそ今こうして出会えるのです」とムーン氏は言う。

デザートローズ、学名Adenium obesum、イエメン、ソコトラ島
別の星に来たかのようなソコトラ島の風景の中でも、「ボトル・ツリー」の異名を持つこの木には最も驚かされる。ずんぐりとして表面は革のように硬く、小さなバオバブのようだ。幹はふくらみ、むき出しの岩に太い塊根が入り込んで、土の少なさを補っているらしい。てっぺんに咲く花のお陰で、この木には「砂漠のバラ」という詩的な名が付いている。(Photograph by Beth Moon)
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 英国から始まった撮影の旅は、米国、アフリカ、中東、アジアにまで広がった。マダガスカルの木を見つけるのには苦労した。「とても大きいので、簡単に見つかると思われるかもしれません。最後には、地元の首長が私たちに手を貸してくれました。車に同乗して、木までの行き方を教えてくれたのです。村の人たちも興味津々の様子でジープの後をついて来て、私が撮影している間も周りに座って見ていました」

ヨーロッパナラ、学名Quercus robur、英イングランド
ヨーロッパ全土で屈指の大きさを誇る未剪定のナラが、ケント州の私有地にある。樹齢は推定400年以上、堂々たる幹の太さは周囲12メートル余りを誇る。木の北側にある太い枝が折れ、できた穴からは空洞になった幹の中の空間を見ることができる。(Photograph by Beth Moon)
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 老木に彼女が引きつけられる理由の一つは、生命を保っていく方法にある。「過酷な条件に耐えて適応する木の能力にはいつも驚かされます。老いていくとともに内側が空洞になるのも、長生きの知恵なのです。そんな木は内部の空洞に根を下ろし、成長を続けます」。彼女は写真集『Ancient Trees: Portraits of Time』(古老の木々:時間の肖像)の中で、こうした老木は「優れた遺伝子を持っており、ゆえに病気や変化に耐え、時代を超えて生き続けてきた」と説明している。

バオバブの道、学名Adansonia grandidieri、マダガスカル
マダガスカル島でしか見られない、樹高30メートル近くにもなるバオバブ群。現地ではマダガスカル語で「森の母」を意味するレナラと呼ばれている。木々は樹齢およそ800年。かつては木が密生する熱帯林だったが、残念ながら今ではこの20本ほどが残っているだけだ。2007年、この道は暫定保護状態に置かれた。(Photograph by Beth Moon)
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 撮影された写真もまた、時代を超えて鑑賞されうるものだ。使っているのはペンタックスの中判フィルムカメラ。コットンの厚い水彩画用紙に貴金属のプラチナとパラジウムを塗り、ネガを載せてプリントする。この過程で画像が紙の繊維に焼き付けられ、色あせることなく長い年月に耐える写真が出来上がる。

ヨーロッパイチイ、学名Taxus baccata、英イングランド
クローハーストにある教会付属の墓地に、幹の太さが周囲約9.4メートルのイチイの老木がある。樹齢は推定1500年以上。1820年に村人たちが幹の中をくり抜くと、清教徒革命による内戦時の砲弾が埋まっているのが見つかった。教会の真向かいにある忠実な王党派の農場が標的にされたのかもしれない。(Photograph by Beth Moon)
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 だが、撮影された現実の樹木の多くは厳しい状況に直面している。「ナミビアでは、水不足でアロエディコトマが次々と枯れています。イエメンにあるソコトラ島のリュウケツジュは数が減って絶滅危惧種リストに入っており、3種のバオバブが現在、IUCNレッドリストの「絶滅危惧種(Endangered)」に分類されています」と、ムーン氏。「原生林の消滅は、現在の環境問題の中でも最も深刻なことかもしれません」

カポック、学名Ceiba pentandra、米フロリダ州
「普通、これほど大きなカポックは熱帯雨林にあるものですが、この木はフロリダの私有地で見つけました」とムーン氏。「1940年代に出た本で初めてこの木の写真を見て、キャプションにはパームビーチにて撮影とありました。その写真と今の様子を比べると、60年で幹が大変太くなったのが分かります。根は地上約3.6メートルもの高さになっています」(左下のベンチと比べると、その大きさを実感できる。)(Photograph by Beth Moon)
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 ムーン氏は幼い頃、お気に入りのオークの木にくぼみで何度となく午後の時間を過ごした。「心の深いところで、木への親しみを常に感じていました」。当時から、その感覚はそれほど変わっていない。今回の撮影の旅では、被写体の木の下でキャンプをした。「ソコトラ島の森や、ボツワナのカラハリにある塩田でバオバブの巨木を仰ぎながら眠ったのは忘れられない思い出です。あれほど自らの中に生命力があふれ、生きていると感じたことはありませんでした」

イファティのティーポット、学名Adansonia za、マダガスカル
マダガスカル島西岸、イファティの小さな保護区に育つザーバオバブは、不思議なほどティーポットに似ており、地元でもそう呼ばれている。樹齢は1200年と推定され、幹の太さは周囲約13.7メートル。12万リットル近い量の水を貯めることができる。(Photograph by Beth Moon)
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 ムーン氏は自身の感動を幅広く共有することで、こうした宝物のような木々を守っていくための議論が始まればと願っている。情熱を芸術作品へと実らせ、対話、行動、畏敬の念を起こさせることが芸術家の役割の一つと感じているからだ。

アロエディコトマ、学名Aloe dichotoma、ナミビア
ナミビア南部にあるアロエディコトマの森は、地球上で最も奇妙な木々を集めたかのようだ。中には樹齢300年に達する木もある。正確に言えば、汁気の多いこのアロエ植物は樹高10メートルにもなる。ブッシュマン族とホッテントット族は、矢を入れる矢筒を作るのにこの植物の中空の枝を使う。1995年、この森はナミビアの国定記念物に指定された。(Photograph by Beth Moon)
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遺跡を覆う木、学名Tetrameles nudiflora、カンボジア
シェムリアップのタ・プロームにある12世紀後半の仏教寺院は現在、森林と畑の中でほぼ打ち捨てられた状態にある。大蛇のようなテトラメレスの太い根が覆いかぶさって石造りの建物に食い込み、土を必死に探している。強固な建築物も、人間が手入れをやめれば荒々しい熱帯林に飲み込まれていく衝撃的な実例だ。(Photograph by Beth Moon)
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See more of Beth Moon’s work on her website.

文=Becky Harlan/訳=高野夏美

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