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海藻の森を悠然と泳ぐホホジロザメが、エイの近くを通過する。オーストラリアのネプチューン諸島沖の海は透明度が高く、ホホジロザメを見られる世界有数のスポットだ。(Photograph by Brian Skerry)

世界でサメを撮ってきた

2016.07.01
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 水中写真家ブライアン・スケリー氏が初めてサメと対峙したのは30年以上前のこと。「深みのある青い皮膚にうっとりしながらも、心臓がドキドキしました。1メートルもないところまで近づくと、そのヨシキリザメはようやく私の存在に気づき、たちまち姿を消しました」

 サメのことを知れば知るほど、この生きものを憎んだり恐れたりするのではなく、その素晴らしさにもっと目を向けてほしいと考えるようになっていった。

 ナショナル ジオグラフィックの2016年6・7・8月号に登場するシリーズ企画「海のハンター」で、スケリー氏は世界各地の海に出かけ、イタチザメホホジロザメ、ヨゴレを写真に収めた。捕食者であるサメが生態系にとって重要な存在でありながら、絶滅の危機に瀕している現状を訴えている。

 彼が30年にわたり撮影してきたサメの写真とともに、サメへの思いや撮影の苦労を語ってもらった。(英語版編集部)

ニュージーランドのオークランド沖で出会ったアオザメ。アオザメは内温性で、周囲の海水より体温を高く保てる。そのおかげで高速で泳ぐことができ、時速95キロの測定記録がある。(Photograph by Brian Skerry)
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 海の中で野生生物を撮影するのは、陸上での撮影とはまるで違う。陸上なら動物が遠くにいても望遠レンズで撮れるが、水中写真家はその手は使えない。いかに透明度の高い海でも、見通しはさほどよくないし、水によって光が吸収、屈折、散乱される影響で、光も色も乏しくなるからだ。

 迷彩テントに隠れて、珍しい生き物がそばを通るのを何週間も待つこともできないし、カメラトラップ(自動撮影装置)のような便利な機材も使えない。だから私は、海に潜るしかない。海中にいられるのは背中のタンクの空気が続く間だけで、1時間足らずということも多い。被写体には通常、2メートル程度まで近づく必要がある。

 では、その被写体が、食物連鎖のトップに君臨する捕食者だったらどうだろう? 怖くてたまらないはずだ。

 カメラを手に、ハイイログマやライオンから数十センチの至近距離に近づくのは正気の沙汰ではない。だが同じことを、私はサメを相手に何度もやっている。その経験からわかったことだが、たいていのサメはむしろ臆病で用心深い。レンズを構え、正面からサメをとらえるのは至難の業だ。サメはこちらに向かってくるのではなく、逃げてしまうことが多い。陸の捕食者に比べて、サメは慎み深い気がする。

 そうは言っても、わが身の安全を保ちつつ、最高のシャッターチャンスをつかむためには、可能な限りリスクを減らし、予防策を講じて撮影に臨むことが必要だ。

2007年3月号「サメたちの楽園」の取材で、スケリー氏はサメが生息するバハマの海域を調査した。メジロザメ属のヨゴレは、海で遭難者を襲う人食いザメとして悪名高い。だが体長2.7メートルほどのこのヨゴレは、生物学者ウェス・プラット氏の横を何事もなく素通りした。(Photograph by Brian Skerry)
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マングローブが根を張るバハマのラグーンを、ニシレモンザメの子どもが泳ぐ。サメの世界は弱肉強食で、同族の間でも共食いは当たり前だが、このラグーンなら安全で餌にも不自由しない。(Photograph by Brian Skerry)
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バハマの浅い海で出会ったイタチザメ。鼻先をかすめるアジの仲間のバージャックには見向きもせず、もっと大きな獲物を探す。(Photograph by Brian Skerry)
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いかにも原始的な姿のヒラシュモクザメは、実はサメのなかでも進化した体をもつ。左右に遠く離れた目と鼻孔は、周囲の状況を鋭敏にとらえる。鼻づらにある多数の小さな穴は、生体の発するわずかな電流を感知する感覚器官。これで獲物の位置を突きとめ、鋭い歯で食らいつく。(Photograph by Brian Skerry)
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 被写体のサメの種類にもよるが、時には中世の騎士のようないでたちで撮影に臨むこともある。サメにかみつかれた場合に備えて、目の細かい鋼鉄の鎖をつなぎ合わせた鎖かたびらで身を固めるのだ。本当にかみつかれたことは一度もないが、これを着ていれば安心して撮影に集中できる。棒の先にカメラを取りつけた、自撮り棒ならぬ“サメ撮り棒”も用意した。これなら船の上から安全に撮影できる。

 個体数が多く攻撃的なサメのいるオーストラリア南部など、一部の海では防護用ケージも役に立つが、限界はある。たいていの種はケージに近寄ってこないし、もしサメが近くに来ても、構図は限定されてしまう。(参考記事:「巨大ザメに触れる衝撃写真に批判相次ぐ」

 ところが、米国マサチューセッツ州ケープコッドでのホホジロザメの撮影には、それまでとはまったく違う安全策の必要に迫られた。この海には近年、ホホジロザメが何匹も姿を見せるようになっているのだ。(参考記事:「“ホホジロザメ追跡”がネットで話題に」

バハマのキャット島沖を泳ぐヨゴレ。世界で4番目に危険なサメといわれるが、乱獲による被害が深刻で、その数は世界的に激減している。(Photograph by Brian Skerry)
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 ケープコッドにホホジロザメが現れるようになったのは2009年以降で、その数は増えている。夏の間にやって来るホホジロザメの狙いは、ハイイロアザラシだ。このアザラシは1600年代にアザラシ猟でほとんどいなくなったが、1972年に海洋哺乳類保護法が制定されると、徐々に個体数が回復しつつある。

 ケープコッドにやって来るサメは野生そのもので、ほかの地域とは違って、船で近づき餌をやろうとしても興味を示さない。おまけに海はいつも緑色に濁っていて、見通しがよくない。

 そんな場所で、いったいどうやったらサメを撮影できるのか。私は頭を抱えてしまった。

 いろいろな方法を試みた後、私が最後に試したのは、アザラシの模型にカメラを仕込むという方法だった。カメラの位置は途中で変えられないので、どこに仕込むべきか吟味しないとならない。サメがいい位置に来たら遠隔操作で撮影できるように、リアルタイムの動画も必要だ。アザラシの模型には興味をもってもらいたいが、興味をもちすぎて攻撃されてはかなわない。カメラが壊れては元も子もないからだ。

 優秀なアシスタントや研究者と力を合わせてなんとか撮影装置を作り上げ、めったに見つからないサメを見つけ出し、さまざまな写真を撮影することができた。そのなかにはケープコッドの浅い緑色の海を、ホホジロザメが泳ぐ姿を初めてとらえたものもある。

オーストラリアのネプチューン諸島付近で、アザラシを探すサメ。ホホジロザメは群れを作らないが、単独行動しかしないわけでもない。時には獲物の近辺に集まることもある。(Photograph by Brian Skerry)
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 写真家である私にとって、サメは尽きることのないインスピレーションの源だ。優雅さと力強さを兼ね備えたその姿に誘われ、その本質をとらえた写真が今度こそ撮れるのではないかという期待を胸に、何度も海に潜ってきた。一方、ジャーナリストとしての私は、サメの危機を伝え、私たちが手を差し伸べる必要があることを報道しなければという、差し迫った責任感に突き動かされる。

 サメという複雑な動物は、誤解されがちだが、地球を健やかに保つために大きな役割を果たしている。写真が伝えているのは、そんなサメの世界のほんの一端にすぎない。それでも私の写真が、読者がサメの素晴らしさに目を向け、彼らの現状を心配する一つのきっかけになれば幸いだ。

参考記事:水中写真家ブライアン・スケリー氏がサメを撮影したナショナル ジオグラフィックの特集
2016年7月号特集「ホホジロザメ 有名だけど、謎だらけ」
2016年6月号特集「イタチザメに会いたい」
2007年3月号「サメたちの楽園 バハマの海」

文・写真=Brian Skerry/訳=倉田真木

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