ニューヨーク個展体験記――粕谷徹(日経ナショナル ジオグラフィック写真賞グランプリ)

2018.07.02
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グランプリ受賞者の粕谷徹さん。
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『日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2017』のグランプリの受賞特典の一つとして、受賞者である粕谷徹さんの個展「Hidden Beauty Near the Shore」が、2018年6月、米国ニューヨークのFoto Care Galleryで開催されました。ここでは現地での写真とともに、ご本人に今回の個展で得たもの、感じたものを語っていただきます。

 個展の準備は3月初旬から始まった。グランプリ受賞の連絡を頂いた時から、NY個展の展示作品のテーマは受賞作品「命をつなぐ」を発展させたものにしたいと思っていた。私が取り組んでいるのは、大冒険や華やかさとは縁遠い、身近な沿岸の海。アジやタイ、ヒラメやマダコなど、どこにでもいる普通の生き物を観察し撮影している。

普通の生き物をドラマチックに

 これらは、スキューバダイビングの世界で多くの人が「普通種」と呼んでいる生き物たちで、水族館でも小さな水槽で端の方にひっそりと展示されることが多い。私はこうした生物や風景を、そのままに写し撮るのではなく、浮世絵などからヒントを得た大胆な構図で画面を切り取り、被写体を強調することを意識している。

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 個展の作品選びには大いに苦労した。様々な切り口で作品の見せ方を模索し、サポートしていただいた方々にも大変な労力を割いていただいた。最終的には卵を守る姿を中心に、私が最も大切にしているテーマ「一生のハイライトを撮る」に沿って作品を選ぶことにした。生きていく中で最も輝かしい瞬間、それは多くの生き物にとって子孫を残すという行為であると思うからだ。

 現地には数日前から滞在し、準備の段階から会場に足を運んだ。不安な思いで個展の初日を迎えたが、オープニングレセプションには150名を超す方々にお越しいただき、想像を超える盛況に驚いた。

 来場者からは「素晴らしい」「表情が面白い」「切り取り方がユニークだ」など、始まるまでの不安が霧散する非常に喜ばしい反応があり、ホッとすると同時に私の思いが伝わった達成感を得られた。個々の作品に対する感想は、日本で作品を発表した時とほぼ同じで、言葉や文化は変わっても伝わる感覚は同じなんだと、写真の持つ「共通感」を感じた。

米国ナショナル ジオグラフィックのユリア・ボイル氏によるスピーチ。
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 今回の会場となったFoto Care Galleryは、撮影機材のレンタルや販売などをする会社のギャラリー。そのためか、撮影方法などの技術的な質問も多かった。ダイビングライトを多用した私の撮影方法などに驚いたり、感心してくれる人もいた。最終日は土曜日だったので、遠くからも来場者が訪れた。Webの告知に掲載された写真を見たくてわざわざやって来てくれたという人もいて、たくさんの話ができた。

 さらに、初日の来場者の一人から、地元ニューヨークのダイバーたちが集まるミーティングに是非参加して欲しいとお誘いを受け、後日、参加させてもらった。参加者は40人ほど。グループでの定期活動報告や安全なダイビングに対する講義の後、私がゲストとして個展の様子や写真を紹介した。ここでも作品が好評だったほか、NYでのダイビングスポットも教えてもらえた。次の渡米時は是非NYの海を撮影してみたい。

写真は世界共通言語

 今回の個展は、私にとって嬉しい出会いの多い、幸せな体験となった。一番強く感じたのは「写真は共通言語」だということだ。感じ方に若干の差はあれど、伝えたい気持ちはしっかりと受け止めてもらえる。

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 同時に課題も見えてきた。NYのギャラリーを数々見て回って感じたのは、どの展示も作品の傾向を揃え、同じ作風を繰り返し展開することで作家の個性を際立たせていたこと。その点、私の作品選びは、ややバラエティーに富んだものになってしまった感がある。しっかりと個性の際立つ作品を撮ること、そして展示することが私の思いを伝える一番の方法だと感じた。今後はこの経験を活かし、作品を発表していけるよう頑張りたいと思う。

粕谷 徹

日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2018 作品募集のお知らせ(画像クリックで募集ページへ)
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