【動画】2018年7月現在、キタシロサイは2頭を残すのみだ。科学者は、最後の4頭のオスのシロサイから採取した精子を保存していた。今回初めて、体外受精(IVF)技術を利用してハイブリッド胚を作る方法が見つかった。(解説は英語です)

 冷凍保存されていたキタシロサイの精子と、亜種のミナミシロサイの卵子を体外受精させ、子宮外でハイブリッド胚を作ることに成功したとの論文が、2018年7月4日、学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された。絶滅に瀕するキタシロサイの未来に希望をもたらす成果だと評価する声が上がっている。(参考記事:【動画】鮮やかに追跡!受精後の細胞分裂24時間

 2018年3月に最後のオス「スーダン」が老衰で死に、残るキタシロサイは繁殖年齢を過ぎたメスの2頭だけとなった(2018年7月現在)。シロサイには、ミナミシロサイとキタシロサイがいるが、キタシロサイはこれで絶滅必至の状態となった。このサイをよみがえらせる方法は、人工的な手段しかなくなっている。(参考記事:絶滅寸前のキタシロサイ、最後のオスが感染症に

 アフリカ南部と中部に生息していたキタシロサイは、密猟と生息地の減少にともない姿を消していった。これまでも飼育下での繁殖が試みられてきたが、いずれも失敗に終わっている。

 そんななか、科学者たちは過去30年にわたり、スーダンを含む数頭のキタシロサイから精子と卵子を採取していた。2018年初頭には、家畜の人工授精を専門とするイタリアのバイオテクノロジー企業アバンテアの科学者が、保存されていたスーダンの精子を使って、飼育下にあるミナミシロサイの卵子を受精させることに成功していた。今回の発表はこれを進めたものだ。(参考記事:人間と羊のハイブリッド胎児の作製に成功

「胚作成の技術は、再現性もあり、非常に有望な結果と言えます」と、ドイツ、ライプニッツ野生動物研究所の繁殖管理部門長で、今回の研究のリーダーであるトマス・ヒルデブラント氏は述べている。

 ヒルデブラント氏によれば、この胚を飼育下のミナミシロサイの「代理母に移植すれば、妊娠させられる可能性が非常に高い」という。なお、ミナミシロサイも国際自然保護連合(IUCN)の「近危急種」に指定されている。

 貴重な胚を代理母に確実に移植する方法が見つかるまで、胚は極低温で凍結保存される。

キタシロサイは復活するのか

 ヒルデブラント氏は、この技術を使用すれば、ミナミシロサイのDNAが混ざらない、遺伝的に純粋なキタシロサイを産ませることも可能だと考えている。

「純粋なキタシロサイを誕生させるために、ケニアに行って、最後のキタシロサイのメス2頭から卵母細胞を採取する準備はもう整っています」とヒルデブラント氏。

 ヒルデブラント氏が言うように、この技術で純粋なキタシロサイを数頭誕生させることはできるかもしれない。だが、キタシロサイが復活したと言えるだけの個体群を再生するのは難しいだろうと専門家は指摘する。

ギャラリー:世界最大の「サイ牧場」を撮影 写真10点
南アフリカにある「世界一」のサイ牧場では、1000頭を超えるサイを飼っている。(PHOTOGRAPH BY DAVID CHANCELLOR, KIOSK)

 今いるキタシロサイは2頭、また、これまで保存した精子や卵子など科学者が利用できる遺伝子は数頭のキタシロサイのものに限られている。米スミソニアン保全生物学研究所、種の保存センターの生物学研究者、ヌチャリン‧ソンサセン氏は、「遺伝的多様性を維持するには不十分でしょう」と話す。

 ソンサセン氏は、今回の研究に関与していないが、保全生物学者なら「絶滅の危機に瀕する種を救いうる新しい方法が見つかった」こと自体はワクワクすると語った。

 とはいえ、キタシロサイのように、絶滅が時間の問題となった種をバイオテクノロジーだけで復活するのは難しいと言う。「仮に純粋種を誕生させられたとしても、個体数が少なく、近親交配も避けられません。絶滅の運命を変えることは難しいでしょう」とソンサセン氏は言う。

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