シダの葉の上で巨大な翅を広げるアメリカ産の大型ヤママユガ、アメリカオオミズアオ(Actias luna)。米ノースカロライナ州で撮影。(PHOTOGRAPH BY AL PETTEWAY AND AMY WHITE, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 アフリカ原産のヤママユガ、アフリカオナガミズアオ(Argema mimosae)が巨大な緑色の「翼」を広げると、卓球のラケットほどの大きさになる。見た目が美しいだけでなく、腹をすかせたコウモリにとって、このガは大きな翅の間にジューシーで栄養たっぷりの体をもつ貴重なご馳走だ。

 アフリカオナガミズアオの後翅からは、独特な形の一対の長い尾(尾状突起)が垂れ下がっている。いかにも捕まえやすそうに見えるかもしれないが、すぐれた反響定位(エコーロケーション)の能力をもつコウモリがこのガをねらうと、たいてい捕まえ損なってしまう。いったい何が起こっているのだろうか。(参考記事:「珍しい肉食コウモリ、大きな爪で獲物捕らえる」

 7月4日付けの科学誌「Science Advnces」に発表された研究によると、この尾は獲物を探すコウモリの反響定位の音波をそらすのに役立っているという。

「ガは1頭なのに、コウモリは2つの的をねらっているように見えました」と米ボイシ州立大学の感覚生態学者で、今回の論文の筆頭著者であるジュリエット・ルービン氏は言う。

 それがどう有利に働くのか? コウモリの攻撃が、急所である体の中心部からそれるのだ。

 ルービン氏らはこの仕組みを確認するため、オオクビワコウモリ(Eptesicus fuscus)とさまざまな大きさや形の尾状突起をもつ各種のガで実験を行った。一部のガについては、人工的に尾状突起を短くしたり長くしたりした。その結果、非常に面白い傾向が明らかになった。

「後翅と尾状突起が長くなるほど、ガはコウモリから逃げのびやすくなるのです」とルービン氏は言う。なお、ルービン氏はナショナル ジオグラフィック協会の支援を受けている。

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月夜に羽ばたくウーリーヘラコウモリ。目的は今夜の獲物だ。メキシコのユカタン半島にすむネズミなどの小動物にとって、夜間は肉食のコウモリに襲われる危険が高い時間帯だ。PHOTOGRAPH BY ANAND VARMA

生死を分けるほどの効果

 尾状突起が数センチ長くなったぐらいでは、たいした恩恵はないように思えるかもしれない。実際、ガがコウモリから逃れるための巧妙な適応には、ほかにもいろいろある。例えば、ハチノスツヅリガ(Galleria mellonella)は、近づいてくるコウモリの声を聞き取れる高感度の聴覚を進化させた。また、ボルネオ島のスズメガは生殖器を振動させて超音波を出し、天敵であるコウモリのレーダーを妨害できる。(参考記事:「小さな“声”で獲物に近づくコウモリ」

 しかし、ガの尾状突起が作り出す錯覚には、生死を分けるほどの効果があるのかもしれない。

ロスチャイルドヤママユの仲間(Rothschildia erysina)。後翅は大きく丸い形をしているが、これもコウモリから身を守るための戦略だ。(PHOTOGRAPH COURTESY UNIVERSITY OF FLORIDA)
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