古代の墓から新種の類人猿の骨を発見、すでに絶滅

中国・秦の始皇帝の祖母の墓で出土、ペットだった?

2018.06.22
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枝渡りをするテナガザル
アクロバットの妙技だ。ボルネオ島のテナガザルは、枝渡りの際に10メートルも離れた枝に飛び移ることがある。命綱も安全ネットもなしで!(解説は英語です)

 米ストーニーブルック大学の霊長類解剖学者ジョン・フリーグル氏は、「下の臼歯は見えません」と言う。フリーグル氏は今回の研究には関与していないが、このサルが新属新種であるとした研究チームの判断を支持し、数百点の標本を比較した厳密さを称賛する。

「長さの測定から得られるデータはすべて得られたと言ってよいでしょう」と彼は言う。

 フリーグル氏は、奇妙な形の骨は、このサルが人間に飼われていたことで説明できる可能性もあると指摘する。「人間に育てられ、ふつうは食べないようなものを食べていた動物は、おかしな骨格になることがあるのです」。けれども、人間に飼育されたことでこれほど大きい歯ができたとは考えにくいとも言う。

「明らかに奇妙な標本です」

人間が霊長類を絶滅に追い込む

 チェーン氏によると、今日では中国のテナガザルの全種が、IUCNのレッドリストで最も危機的状態にあるとされる「近絶滅種(critically endangered)」に分類されている。森林伐採と密猟により、テナガザルはかつての生息地のごく一部で細々と生き延びているような状況になっている。

 一部の研究者は、人間の活動により霊長類が絶滅に追い込まれるようになったのは最近のことだと考えている。オリッツ氏は、「類人猿は、人間による圧力や、それに伴う生息地の消滅があっても、どうにか回復できると考えられていたのです」と説明する。しかし、今回の発見は、そうとはかぎらないことを示唆している。

 過去に起きた大規模な絶滅のほとんどは、気候の大変動などが原因だった。約1万1000年前に最終氷期が終わって、氷河が後退し、気温が上昇すると、メガテリウム(巨大なナマケモノ)やケナガマンモス、サーベルタイガー(剣歯虎)など、多くの動物が絶滅に向かいはじめた。

 しかしテナガザルは生き延びた。発見された化石から、彼らは今から2000年ほど前に、現在の中国陝西省にあたる地域の森で暮らしていたと考えられている。歴史記録によると、彼らはこうした森の中でほんの数百年前まで暮らしていたが、その後、姿を消したという。(参考記事:「絶滅危惧サル、かつては広く生息、古代文献で解明」

キタホオジロテナガザルの母娘。(PHOTOGRAPH BY DOUG GIMESY)
[画像のクリックで拡大表示]

彼らはどこに行ったのだろう?

 この時期、人口の増加とともに広大な農地が必要になり、森林が伐採された。樹上生活を好むテナガザルは、住処を失って暮らしにくくなった。そのうえ、(夏太后とともに埋葬されたサルのように)ペットとして珍重されたことが、生き残る可能性をさらに小さくした。

 チェーン氏の説明によると、インターネット時代になっても、テナガザルを取り巻く状況は改善されず、むしろ悪化した側面もあるという。「ツイッターやインスタグラムやフェイスブックでは、テナガザルが公然と販売されています」

 多くのテナガザルが絶滅のすぐ手前まで来ている。ハンスフォード氏らは現在、世界中に26匹しか残っていないカイナンテナガザル(Nomascus hainanus)を保護するために活動している。(参考記事:「絶滅寸前の「歌うテナガザル」カイナンテナガザルを守れ、中国海南島」

「現生のテナガザルは、おそらくアジア全域に広く放散したテナガザルや霊長類の生き残りです」とハンスフォード氏は言う。「私たちは、多くのテナガザルを失っています。それなのに、自分たちが失った種の数を数えることさえできません。記録がないからです」

 夏太后のテナガザルの発見は、現生種の保護の重要性を強調するものだ。「私たちは過去から学ぶことができます」とチェーン氏は言う。「未来を変えるために努力することができるのです」

文=Maya Wei-Haas/訳=三枝小夜子

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