【動画】インドでゾウの列車事故が多発、対策は?

列車がゾウをはねる事故が後を絶たない。解決策を探す取り組みが続く

2018.06.26
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【動画】インドでは、ゾウが列車と接触して死亡する事故が相次ぐ(解説は英語です)

 インドのベンガル地方に本拠地を置く野生生物研究センター(Centre for Wildlife Studies)の博士課程に在籍する保全科学者、アリトラ・クシェトリ氏は、恐ろしい光景を目にしたことがある。インドでの人と野生生物との共有スペースに関する研究を行うため、実地調査を始めたばかりの数年前の話だ。

 チャプラマリの森は、インド東部、ブータンとの国境近くにある。冬になると、このあたりの植物はほとんど枯れてしまう。しかし、ゾウの群れは、森を横断する鉄道沿いに青々とした草を見つけた。列車がやってきたのは、夕刻、ゾウたちが線路で食事をしているときだった。時速約80キロメートルで走行していた列車は、ブレーキをかけたが間に合わず、ゾウの群れに突入した。結果、5頭の大人と2頭の子供が死に、10頭のゾウがケガをすることになった。(参考記事:「【動画】閉じた踏切を渡るゾウ、驚きの行動を解説」

 クシェトリ氏が事故現場を訪れたのは、翌朝早くのことだ。「ゾウたちは、橋のすぐ前で、線路上に一列になって立っていたようでした」とクシェトリ氏は話す。「橋に向かって列車に押される形になり、何頭かは川に落ち、何頭かは引っかかって橋からぶら下がっているような状態でした。みんな、バラバラになって横たわっていました」

 機関車の運転手は、事故が起きた後も、群れはそこにとどまっていたと述べている。現場を片付けるのに、24時間近くが必要だった。

 2013年11月に起きたこの事故は、ゾウが巻きこまれた最近の事故の中で最悪のものだ。しかし、野生動物保護団体「Wildlife Trust of India」によると、インドでは1987年から2017年7月までの間に、266頭のゾウが列車事故の犠牲になっている。ニュースの報道によれば、今年2018年には、15頭のゾウが鉄道で死んだことがわかっている。いくつかの州には、事故がよく起きる「危険地帯」がある。鉄道がゾウの生息地を横切り、高速列車の本数とゾウの生息数が多いという条件がそろった場所だ。

 30年以上にわたってインドのゾウについて研究してきたインド理科大学院の生態学者、ラマン・スクマル氏は、「統計的にも、感情的にも、列車事故はゾウの生息数に大きな影響を与えることはないという人がいます。非常に残念な考え方です。しかし、インド鉄道のマスコットを見てください。ゾウですよ。自分のマスコットを殺してはいけないでしょう」

事故が頻発する「危険地帯」

 インドは大規模な鉄道システムを有している。総延長は6万5000キロ以上に及び、2016〜17年度には80億人以上の旅客を運んだ。初めての線路は英国の植民地時代に敷設され、1990年代初め以降は徐々に狭軌だったレール間隔を広軌に転換。列車の大型化、高速化、本数の増発を進めてきた。列車の速度が上がることは、ゾウの生息地を横切る場所、特に生息数が多い場所では、ゾウの被害を増やすことになる。インドには、ゾウの生息地と生息地を結ぶ「回廊地帯」が101カ所存在するが、そのうち20カ所を鉄道が横切っている。

 アジアゾウはインドから東南アジアにかけて分布しているが、その約55%がインドで暮らす。公式な統計では、インドの野生のゾウは1980年には1万5627頭だったが、2017年には2万7312頭になっており、大きく増加した。

 ただし、インドじゅうのゾウのすべてに列車と衝突する危険があるのかといえば、そうではない。事故が集中しているのは、主に東部の危険地帯だ。中でも危険度が高いのが、ゾウの生息密度が高い西ベンガル州北部だ。7頭が犠牲になった前述の2013年の事故もここで起きたものだ。鉄道会社の報告によると、2017年12月中旬までの5年間で、30頭のゾウが犠牲になっている。直近の事故と考えられているのは、2018年6月8日の夜、列車がメスのゾウに衝突したものだ。まさにその日、森林担当者と鉄道会社による対策会議が開かれていた。

 北東部に位置するアッサム州も、もう一つの危険地帯だ。2017年12月の衝突事故では、5頭のゾウが死んだ。のちに、群れにいたメスのゾウから、死んだ胎児が取り除かれた。事故後、保護団体がインド鉄道相に対して公開書簡で問題への対応を訴えた。その1週間後、同州でさらに4頭のゾウが死ぬ事故が起きた。機関車が脱線するほどの激しい衝突だった。(参考記事:「【動画】子ゾウが溺れる!! 母親ゾウが必死の救出」

次ページ:今後も広がる鉄道網、抜本的な解決策が必要

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