大きな同盟でも「個」を維持

 ハンドウイルカがオスメスともに名前のようなシグネチャーホイッスルを持つことは、1960年代からすでに科学者たちの間では知られていた。

 ただ、録音した音声をイルカたちに聞かせる実験をキング氏が行うまで、どれほどまでにシグネチャーホイッスルが重要なのかはわかっていなかった。

 2013年の研究においてキング氏は、まるで教室で名前を呼ばれる生徒のように、イルカが自分自身のシグネチャーホイッスルの録音音声に反応することを示した。イルカは自分以外のシグネチャーホイッスルには反応しなかった。(参考記事:「イルカは“名前”を呼ばれたら反応する」

 同氏はさらに、イルカが互いのホイッスルを覚え、相手を呼んでいるかのような行動をとることも発見した。(参考記事:「しゃべるシロイルカ、ナックに会う」

 キング氏の最新の研究は、こうした研究の蓄積のうえに成り立っている。イルカたちは「名前」を使うことによって、複数の社会関係を築き、保ち、発展させている。もしすべてのイルカが同じ「名前」を持っていたとしたら、とても出来ることではない。

 階層が上の同盟には最大で14頭ものイルカが含まれるため、イルカたちは常にそれぞれが様々な関係性について把握していなければならない、とキング氏は言う。

「だれが友達で、だれがライバルで、だれがライバルの友達なのかを知っていなければならないのです」

【参考ギャラリー】息をのむ水中写真 15点(写真クリックでギャラリーページへ)
バハマの海面の下を泳ぐハンドウイルカ。(PHOTOGRAPH BY SHANE GROSS, NATIONAL GEOGRAPHIC YOUR SHOT)

行動を同調させて絆強める

 オスたちは互いに触れ合い動きを同調させる中で絆を強めていく。軍隊の行進にも似て、並んで泳いだり、呼吸のために同時に水面に浮上したりする。

「ヒトにおいて行動を同調させることは、信頼と協力を促進するホルモンであるオキシトシンの分泌と関係があるとされています」とキング氏は述べる。(参考記事:「【動画】攻撃的な犬はホルモンに違い、改善に光」

 おそらくイルカにおいても、同調することは似たような働きをもつのだろう。イルカはどのようにして、驚くほど複雑な社会的ネットワークをつくっているのか。今回の研究が、新たなヒントをもたらしてくれている。(参考記事:「恋に効く、可能性を秘めた4種の媚薬」

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文=Jason Bittel/訳=桜木敬子