2017年9月に甚大な被害をもたらしたハリケーン・マリア。将来、熱帯低気圧はもっと強力になるかもしれないと、科学者たちは警告している。(PHOTOGRAPH BY CIRA, NOAA)
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 6月6日付けの学術誌「Nature」に発表された最新の研究によれば、ハリケーンや台風などの熱帯低気圧の移動速度が数十年前より遅くなっており、より長く、大きな被害につながっていることが明らかになった。

 また、学術誌「Journal of Climate」5月号に発表された別の研究でも、今後、温暖化によって熱帯低気圧の移動速度が遅くなることが示唆されている。

 熱帯低気圧の移動速度が遅くなるのはよいことだと思うかもしれないが、実際は逆だ。熱帯低気圧内の風速は変わらず、移動速度のみ遅くなれば、同じ場所に激しい雨が降り続けることになる。(参考記事:「【動画】運転中に竜巻に遭遇、とるべき行動は?」

 2つの研究を合わせると、気候変動はこれまでの予想をはるかに超えるレベルで、ハリケーンや台風の危険をすでに増幅させているようだ。さらに、今後も危険な気象現象は増え続け、特に、大洪水が起きる可能性が高まる。(参考記事:「ハリケーン、サイクロン、台風の違いは?」

「熱帯低気圧の速度が低下しても、何ひとつよいことはありません」と話すのは、「Nature」の論文の著者で、米ウィスコンシン州マディソンにある米海洋大気局(NOAA)気象気候センターのジェームズ・コーシン氏だ。「高潮がひどくなり、建造物が強風にさらされる時間が長引き、そして、降雨量が増えます」(参考記事:「巨大嵐の後、米国の家々が宙に浮き始めた」

被害は拡大する一方

 2017年8月、ハリケーン・ハービーによる集中豪雨で、米テキサス州ヒューストンの一部で数百ミリの降水量を記録した。のちに、豪雨となったのは、海水温と気温が上昇したことで、熱帯低気圧により多くの水蒸気が供給されたためという研究結果が報告された。気候変動が雨の強さと熱帯低気圧の発生率の両方を増加させたということだった。(参考記事:「大型ハリケーン「ハービー」被害の記録 写真29点」

【参考ギャラリー】豪雨、竜巻、雷、台風…異常気象の衝撃写真13点(写真クリックでギャラリーページへ)
「スーパーセル」と呼ばれる巨大積乱雲による雷雨がサウスダコタ州を襲う。スーパーセルは非常に激しい気象現象をもたらし、強風やあられ、時には竜巻を伴うこともある。 (PHOTOGRAPH BY JIM REED, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 コーシン氏は今回の論文で、熱帯低気圧の被害が拡大している別の理由を突き止めた。論文によれば、熱帯低気圧は1949〜2016年に、全体の移動速度が平均で10%低下しているという。上陸後に速度がより低下する地域もあった。特に、太平洋北西部では上陸後の台風の速度が30%も低下していた。熱帯低気圧が抱える水蒸気の量が増え、同じ場所に雨を降らせる時間が長くなっていたということだ。

 インド洋のみ傾向が異なるものの、「ほかのすべての地域で遅くなっています」とコーシン氏は述べている。「しかも、この傾向はずっと続いています」

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