より遅く危険になる台風、上陸後の速度は30%減

「この傾向はずっと続いています」と研究者、被害の拡大を懸念

2018.06.08
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 コーシン氏の研究は、70年近くの間に発生した熱帯低気圧のデータに基づいている。速度低下の原因は論文で特定されていないが、コーシン氏を含む熱帯低気圧の専門家は、気候変動によるものと考えている。極地の方がほかの地域より温暖化が速く進んでいるせいで、気圧の勾配に変化が生じ、熱帯低気圧を移動させる風が弱まっている。(参考記事:「北極海の海氷面積、観測史上2番目の小ささに」

「熱帯低気圧は風に運ばれるため、つじつまが合います」とコーシン氏は述べている。「風が弱まれば、熱帯低気圧が1カ所にとどまる時間が長くなります」

 米カリフォルニア州にあるローレンス・バークレー国立研究所の気候生態系研究部門に所属するクリスティーナ・パトリコラ氏は、コーシン氏の研究について、「重要かつ新しい」研究であり、「かなり説得力があります」と評価している。

「熱帯低気圧が遅くなっていたという発見自体は驚くものではありませんでした。ですが、速度低下の規模には驚かされました」

 パトリコラ氏はコーシン氏の論文の査読者で、その過程でいくつかの新たな疑問が生じたと指摘している。例えば、異常に速度が遅い熱帯低気圧の発生率が近年増えているとしたら、ハリケーン・ハービーのように、何日も立ち往生するような「停滞型」の熱帯低気圧も増えているのだろうか?

 コーシン氏は、多くの科学者が気象モデルの作成に取り組み、最もリスクが高い地域を調べてくれるよう願っている。一部の地域で、熱帯低気圧がより高緯度まで移動し、すでに強さを増している事実を考えると、異常な豪雨を降らせる熱帯低気圧がこれまでの進路と異なる地域に被害をもたらす可能性もある。「これはまずい組み合わせです」とコーシン氏は述べている。(参考記事:「観測史上初、太平洋にカテ4のハリケーンが3つ」

未来予測モデルでも同じ傾向に

「Journal of Climate」に発表されたもうひとつの論文は、米コロラド州ボルダーにある米大気研究センターのイーサン・ガットマン氏率いるチームによるものだ。こちらの研究では、過去13年間に発生した22のハリケーンを選び出し、温暖化が進んだ未来に同じハリケーンが起きたら、どのような違いが生じるかを予測した。(参考記事:「2100年、酷暑でアジアの一部が居住不能に」

 ガットマン氏らは気温が最大5℃上昇した予測モデルを用意し、熱帯低気圧のデータを読み込ませた。すると、熱帯低気圧の移動速度は9%遅くなり、湿度はひどく上昇し、降水量が平均24%増加した。(参考記事:「2017年の海水温は観測史上最高、研究発表」

「遅くなるだけでなく、強さも増すという結果が出ています」とガットマン氏は説明している。「内陸の洪水と都市インフラに深刻な影響を及ぼし得る結果です」

 コーシン氏とガットマン氏のアプローチはまったく異なる。前者は過去のデータを調べ、後者はコンピュターモデルで温暖化のシナリオをつくり、熱帯低気圧がどのように変化するかを確かめた。どちらのアプローチにも限界がある。同じ熱帯低気圧が繰り返されることはないためだ。

 コーシン氏もガットマン氏も、重要なのは大局的な視点を持つことだと述べている。確かに、全く異なる2つの研究が同様の傾向を示唆したという事実が警鐘を鳴らしていることは間違いない。

「私たちは2人とも、研究を前に進め、新たな証拠を提示しています」とガットマン氏は話す。「全く同じ傾向の証拠がどんどん示されれば、自分が出した答えにもっと自信を持つことができます」

文=CRAIG WELCH/訳=米井香織

おすすめ関連書籍

気候変動 瀬戸際の地球

『ナショナル ジオグラフィック別冊』シリーズの第8弾。

定価:本体1,400円+税

  • このエントリーをはてなブックマークに追加