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カリブーは春になると、北極圏国立野生生物保護区(ANWR)の沿岸部にある平原に移動し、そこで6週間過ごす。草を食べて子を産み、群がってくる蚊や先住民のハンターたちから身を守る。この一帯には原油が眠っているとみられている。PHOTOGRAPH BY FLORIAN SCHULZ

 アラスカ州北東部の沿岸に広がる北極圏国立野生生物保護区(ANWR)の平原には、多くの野生動物が集まり、先住民の狩場にもなってきた。だが地下には約77億バレル相当の原油が眠るとされ、問題を引き起こしている。

 米連邦議会がここに面積7万8000平方キロの野生生物保護区を制定した1980年当時、米国の石油産業は危機に直面していた。需要低迷と余剰生産により、原油価格が下落を続けていたのだ。そのため、大量の原油が埋蔵されているとみられる約6000平方キロの土地の掘削許可は見送られた。

「私が移り住んだ1970年代初め、ここはまだ保護区ではありませんでした」と語るのは、生物学者としてアラスカ州漁業狩猟局に勤めた後、小型機のパイロットとなったパット・ヴァルケンバーグだ。「今ではこの保護区のことが報道されるたびに、大勢の人が押し寄せます」

 最近、この保護区のことが頻繁に報道されるようになっている。共和党は40年ほど前から何度も原油掘削の許可を得ようと試みてきたが、昨年ついに、税制法案のなかに原油掘削の条項を紛れ込ませて成立させたのだ。

 掘削の開始はまだ先になるとみられるが、米国の現政権は、新法案に定められた2件の鉱区借用権の売買契約を進めようとしている。アラスカ州政府と連邦政府は、議会予算局が22億ドル(約2400億円)と見積もった借用権の売却益を折半する予定だ。

 消費税や所得税のないアラスカ州は、常に財源を必要としている。州予算の9割は天然資源産業でまかなわれ、その大半がアラスカ縦断石油パイプライン(TAPS)で運ばれるノース・スロープ産の原油に対する課税だ。

 2014年に原油価格が下落してから、アラスカ州は数十億ドル規模の財政赤字に苦しんできた。しかも近年、原油価格が持ち直したにもかかわらず、TAPSで運ばれる原油の量は1988年以降、着実に減り続けており、将来の見通しをさらに暗くしている。米エネルギー情報局が2012年に発表した推計によると、今後も原油価格の低迷が続けば、パイプラインは26年に閉鎖されるという。州内の民間雇用者30万人のうち、3分の1が石油と天然ガス産業に依存しているため、影響は大きい。

 ANWRの西側にあるアラスカ国家石油保留地と周辺の州有地では、すでに原油掘削が認められている。新たな油田が見つかり、この一帯の掘削可能な原油の埋蔵量は推定87億バレル。ANWRを10億バレルも上回る。

 アラスカ州の政治家たちは石油を手に入れようと必死のようだが、米国には現在、アラスカ州以南で掘削されるシェールオイルと天然ガスが潤沢に行き渡っていて、辺境の原油を掘削しても採算は取れない。「簡単には答えの出ない、重大な問題です」と、アラスカ大学アンカレジ校の経済学者ムシン・グタビは語る。「私たちは誰の利益を最大化しようとしているのでしょう? 米国民の誰もが認める、この原生自然の価値を考慮していますか? それとも、アラスカ州民の利益だけを追求しているのでしょうか?」

※ナショナル ジオグラフィック6月号「極北の野生動物に迫る危機」では、原油掘削の許可が下りたアラスカの保護区の美しい自然を写真で紹介します。

ジョエル・K・ボーン Jr. ジャーナリスト