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バングラデシュ、ブリガンガ川の支流に架かる橋の下で、ボトルのラベルをはがし、緑色と透明のものに分ける作業をする一家。回収業者に売ると、月に1万円ほどの収入になる。PHOTOGRAPH BY RANDY OLSON

 プラスチックは19世紀後半に発明され、生産が本格化したのは1950年頃のこと。これまでの累計生産量は83億トン。そのうち廃棄されたのは63億トンにのぼるが、廃棄されたなかでリサイクルされていないプラスチックは、実に57億トンもあるという。2017年にこの数字を割り出した科学者たちも驚く状況だ。

 回収されなかった廃プラスチックがどれだけ海に流入しているか、はっきりした数字はわからないが、絶滅危惧種も含めた700種近い海洋生物に影響を与え、毎年多くを死に追いやっていると推定される。投棄された漁網にからまるなど、目に見える形での被害もあるが、目に見えない形でダメージを受けている生物はもっと多い。

 直径5ミリ以下の微小なプラスチック粒子は「マイクロプラスチック」と呼ばれ、今では動物プランクトンからクジラまで、あらゆる大きさの海洋生物が体内に取り込んでいる。マイクロプラスチックは、深海の堆積物から北極の海氷まで、調査されたあらゆる海域で見つかっている。ある論文によると、北極で氷の融解が進めば、今後10年間に1兆個ものプラスチック粒子が海に流出する可能性があるという。

フィリピンの「死んだ川」

 こうした事態になぜ陥ったのか。

 プラスチックほど人々の暮らしを変えた発明品も珍しい。宇宙開発に貢献し、医療に革命をもたらし、自動車や大型ジェット機を軽量化して、燃料消費と大気汚染を減らす役目も果たしている。生鮮食品を包んで保存期間を延ばし、エアバッグや保育器、ヘルメット、清浄な水を届けるボトルとして、人命を救うために日々役立ってもいる。

 しかし現在、世界で生産される年間約4億トンのプラスチックのうち、約4割は使い捨てで、その多くは購入後すぐに用済みになる包装材だ。プラスチックの生産量は猛烈な勢いで増えている。

 背景の一つとして、急成長するアジア諸国で使い捨てプラスチック包装材の利用が増えたことが挙げられる。これらの国々では、ごみの収集システムが十分整備されておらず、そもそも存在すらしていないところもある。

 フィリピンの首都マニラの都心を流れ、マニラ湾に注ぐパシグ川は、かつては暮らしに潤いをもたらす水辺だった。しかし、今では廃プラスチックを海に運ぶ量で、世界のワースト10に名を連ねている。河口から海に流れ出すプラスチックの量は、年間で最大6万5300トン。その多くは雨期に集中している。1990年には、生物が生息できない「死んだ川」と宣告された。

 課題は誰の目にも明らかだ。パシグ川に注ぐ51の支流沿いには、掘っ立て小屋が乱立し、そこに住む大勢の不法占拠者が投げ捨てたプラスチックが川面にあふれている。チャイナタウン近くを流れる支流は廃プラスチックに埋め尽くされ、橋が架かっていなくても歩いて渡れるほどだ。

先進国がいくらリサイクルしても…

 米ジョージア大学の工学者ジェンナ・ジャムベックの試算では、2010年の時点で、廃プラスチックの半分はアジアの5カ国(中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、スリランカ)で発生しているという。

「北米とヨーロッパで100%リサイクルしたとしても、海洋に流出するプラスチックの全体量はほとんど変わりません」と言うのは、米国と祖国インドでこの問題に取り組んできた米ミシガン州立大学の化学工学者ラマニ・ナラヤンだ。「この問題に対処するには、これらの国々に出向いて、処理方法を改善するしかありません」

※ナショナル ジオグラフィック6月号「地球を脅かすプラスチック」では、海に流れ出るプラスチックがもたらす危機を、データと現場取材で浮き彫りにします。

文=ローラ・パーカー