日本で一番人口密度が高い都市があった長崎県・端島。廃墟と化した「軍艦島」では、鉄筋の腐食で建築物の崩壊が懸念されている。(字幕は英語です)

 長崎県沖に浮かぶ広さ6.5ヘクタールほどの端島。威容を誇ったコンクリートや鉄は朽ち、草花やつる植物が広がる。

 かつて世界屈指の人口密度を誇ったが、1970年代半ばからは無人島になっている。「人工的」という形容がふさわしかった端島だが、人がいなくなってからは緑が目立つようになった。現在、ジェームズ・ボンドの映画「007スカイフォール」で悪役が潜む島のモデルになった端島に訪れるのは、廃墟となった姿を見に観光する人くらいだ。(参考記事:「廃墟となったリゾート、写真で比べる昔と今14点

 端島は、その外見から「軍艦島」とも呼ばれ、こちらの名のほうがよく知られている。東京大学の野口貴文氏が率いる研究グループは、2011年より廃墟と化した端島を訪れ、建物の鉄筋コンクリートの劣化度を調査している。その究極の目的は、島の建造物の保全だ。(参考記事:「保存か? 解体か? 名建築『中銀カプセルタワー』の内部写真21点」

 海から頭を突き出している密集したアパート群は、長い間、海水や台風によって浸食されてきた。このような建造物の配置や密度は、ほかにはない貴重な研究対象だ。

「長い間浸食されてきた鉄筋コンクリートの廃墟は、端島以外にはあまり例がありません」と野口氏は話す。「古代ローマ時代のコンクリート建造物も似ているように思いますが、鉄筋は含まれていませんからね」

 端島は海底炭坑の上に位置する。日本が急速に工業化した20世紀、産業で重要な役割を果たした。この島は三菱財閥によって開発され、急成長を遂げる日本に石炭を供給してきた。

 最盛期には小さな島を囲む護岸内で5000人以上が働き、暮らしていた。1974年に炭坑が閉鎖され、現在は無人島となっているが、2015年に世界文化遺産に登録されている。(参考記事:「ギャラリー:守りたい!危機にある世界遺産、23選」

日本の産業化を支えた歴史を保存

 野口氏のチームは、崩壊しつつある建造物の間を注意深く歩きながら、赤外線レーザーなどの探査器を使ってコンクリートの浸食や亀裂、そして建物の骨格を構成しているもろくなった鉄骨の状態を調べている。鉄が腐食していつ崩壊してもおかしくない建物もあるが、適切に補修すれば保存できる可能性はある。

「腐食が進んで崩壊しつつある鉄筋コンクリートの建物も、修復や補強すれば保存できます。保存可能な建物は島内にまだあります」と野口氏は話す。端島の調査で、耐久性の面では新しい建築資材である鉄筋はベストではないことがわかった。建材としてはセラミックのほうが優れている。

 野口氏は、端島の建物を一つでも多く保存して、たくさんの人に「時間が止まった島」を体験してもらいたいと願っている。

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