むき出しの敵意に包囲される、米国のイスラム教徒

モスク放火事件、憎悪をあおり立てる政治家、ムスリムたちの行方は

2018.05.01
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ラマダン(断食月)明けの祝日に、野外パーティーを楽しむロサンゼルス南部の子どもたち。主催した「イスラーLA」は、黒人のムスリムの地域センターで、地域や教育の振興、住民の社会・経済的地位の向上を目指している。PHOTOGRAPH BY LYNSEY ADDARIO

 炎上したのは、米国テキサス州南部の都市ビクトリアにあるモスクだ。この街に住むムスリム(イスラム教徒)の一人、パレスチナ系米国人のエイブ・アジュラミにとっては、娘が同級生たちと高校卒業を祝ってもらった場所であり、家族そろって毎週金曜の礼拝に通い、近隣に住むムスリムたちと料理を持ち寄って交流してきた場所でもある。

 2017年1月28日の夜、炎に包まれて崩れていくモスクを前に、アジュラミはこの街に住む何人かのムスリムたちと現場に立ちつくした。彼らは涙を流し、抱き合い、祈ったという。そのわずか数時間前には、米国大統領に就任したばかりのドナルド・トランプが、ムスリムが多数を占める7カ国からの入国を制限する大統領令に署名したばかりだった。

 モスクの一部を倒壊させた火災は、放火によるものとみられ、容疑者はヘイトクライム(憎悪犯罪)で起訴された。アジュラミは現場の写真を撮り、「私たちは愛をもって再建します」というメッセージを添えてインターネット上で公開。この投稿はあっという間に拡散され、数日のうちに100万ドル(約1.1億円)の寄付が集まった。街の人々からも支援を受け、今でも小切手が郵送されてくるという。

イスラム信仰へのゆがんだイメージ

 現在、米国にいるムスリムは推定345万人。ごく一部のイスラム過激派がテロに走る一方で、反イスラム感情をあおる人々もいるために、イスラム信仰はゆがんだイメージで見られ、米国のムスリムはむき出しの敵意に包囲されている。保守派のニュース解説者や政治家も、激しい反ムスリム発言で憎悪をあおり立てる。トランプ大統領は繰り返しイスラム脅威論を振りかざし、ツイッターでも、イスラムに敵対的な姿勢を隠そうともしない。

 米国のムスリムのなかでは、比較的新しい移民とその2世が最大の割合を占める。宗教指導者の多くは外国生まれだが、米国育ちの世代にわかりやすい表現でイスラムの教えを説く指導者や学者も増えてきた。米国のムスリムのほぼ半数は米国生まれ。21世紀に成人を迎えたミレニアル世代が半数近くを占める。

 この世代にイスラムの教えを説く指導者の一人、ウサマ・キャノンはカリフォルニア州出身。黒人と白人の血を半分ずつ継ぎ、1996年にイスラム教に改宗した。

 米国生まれのムスリムにとって、多くの国々から来た移民が集まり、多様な文化や慣行が入り交じるモスクは、なじみにくい場所ともなる。「誰でも無条件で歓迎される場にしようと思いました」とキャノンは話す。「自分のペースで、誰にも強制されずに通える場にしたい、と」

「イスラムは澄み切った川の水のようなもので、川床の色を映し出すと、偉大な学者に教わりました」。テキサス州ヒューストンのモスクで、彼はそう話してくれた。「米国のムスリムも川床の岩の色を美しくまとい、米国が目指す試みに貢献できるといいですね。米国らしさを取り入れながらも、信仰の伝統は紛れもなく本物――そんなあり方が理想です」

※ナショナル ジオグラフィック5月号「米国で生きるムスリムたち」では、誤解や中傷を受けながらも、たくましく生きる米国のイスラム教徒を紹介します。

文=レイラ・ファデル/ジャーナリスト

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