「農業」する昆虫、「除草剤」も活用、最新研究

菌を栽培して食べる養菌性キクイムシの驚異の戦略が明らかに

2018.04.13
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 研究チームはまず、米オハイオ州の研究施設で、健康な木の近くにエタノールを置いてみた。アンブロシアビートルがやって来て木の中にトンネルを掘り始めたが、ほどなく去っていった。菌の畑作りも、繁殖もしていなかった。

 だが、木にエタノールを吸収させると、アンブロシアビートルはその木の中にすみ続けた。しかも菌の畑を作り、子孫を増やして繁栄した。

 つまりエタノールは、単にアンブロシアビートルを引き寄せただけではなかったことがわかるとレンジャー氏は話す。(参考記事:「蚊は叩こうとした人を覚えて避ける、はじめて判明」

「雑草」を死滅させて共生菌を増やす

 次に、研究チームは実験室内でハンノキキクイムシを育て、おがくずを詰めた筒の中に入れた。筒に低濃度のエタノールを注入すると、アルコールを入れていない筒のハンノキキクイムシに比べ、ハンノキキクイムシがつくる菌の畑は大きくなり、繁殖も盛んになった。

 さらに研究を重ねた結果、意外な事実が分かった。ビーダーマン氏によると、エタノールはアンブロシアビートルと共生する菌の成長を促しており、虫たちが食べない余計な菌種、すなわち「雑草」を死滅させているのだという。エタノールは「除草剤」というわけだ。

 米テキサス大学オースティン校の昆虫学者であるウルリッヒ・ミュラー氏は、ハンノキキクイムシがエタノールを含む木に畑を作るのは、菌の競争相手を取り除く戦略であり、食料を選択的に育てる能力だと述べる。なお、氏は今回の研究に関与していない。

人工の生息環境でトンネルを掘る、メスのサクセスキクイムシ。(PHOTOGRAPH BY GERNOT KUNZ, INSTITUTE OF ZOOLOGY, UNIVERSITY OF GRAZ)
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 ミュラー氏が驚いたのは、そのシンプルさだ。そういった方策があるとすれば、もっと複雑で、複数の化学物質が関わっているだろうと予想していたという。

 しかも今回の研究で、エタノールが成長を促進する共生菌をほかにも数種類、アンブロシアビートルが好んでいることも分かった。したがって、この能力はハンノキキクイムシだけに限らないのかもしれないとビーダーマン氏はいう。(参考記事:「酒と人類 9000年の恋物語」

 研究チームは、アンブロシアビートルの共生菌がどう育つのかを解明することで、農作物への被害を抑える方法が明らかになることを期待している。(参考記事:「キクイムシの大発生、米国干ばつの影響」

 今や苗木畑や果樹園に「ストレスを受けている初期段階の木があり、エタノールを出しています。時に全く健康に見えるので、生産者は問題ないと思ってしまうのです」とレンジャー氏は話す。「ですがほどなく、アンブロシアビートルの攻撃が始まります」

文=Douglas Main/訳=高野夏美

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