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身ごもった半野生の雌馬。仕留めたヘラジカなどを運ぶこうした馬たちは、寒さの厳しい季節には村人たちから食べ物を与えられ、馬小屋で過ごすこともある。PHOTOGRAPH BY ELENA ANOSOVA

 子どもの頃に聞いたおとぎ話が、大人になって現実になることがある。

 ロシアの都会に生まれたエレナ・アノソバは、ヘラジカやオオカミが出没する、広大な森に囲まれた村の話を聞いて育った。過酷な環境だが、人々に愛されているという。当時は作り話なのではないかと思っていたアノソバだが、すっかり大人になった今、ついにその地を訪れる機会がやってきた。300年以上昔、猟師だったアノソバの先祖が毛皮を求めてシベリアへ分け入り、築いた集落だ。父親の生まれ故郷で、約120人の住民は大半が親類関係にある。

 彼らの意向で村の詳細は明かせないが、名前は地元のエベンキ語で「島」というような意味をもつ。それは写真や映像などを手がけるアノソバが作品のテーマとする「孤立」や「境界」と重なる。幻のようなこの陸の孤島を車で訪ねるのなら、亜北極地帯のタイガの沼地が凍結する冬がいい。最速の手段は、約300キロ離れたキレンスクの町から月に2便飛ぶヘリコプターだが、満席なら2週間も待たされてしまう。

 村ではやることがいくらでもあった。気温が高く、スノーモービルで猟に出られない日は野生の馬を駆り集める。まきストーブで暖めた温室で作物を栽培し、冬に備える仕事もある。現金はほとんど必要ない。街へ出るときにだけ、クロテンの毛皮を売って調達する。アノソバは、村での日々を境に、喧噪が絶えない都会生活に違和感を覚えるようになった。

 時には村の凍える寒ささえ恋しくなる。1月の朝に「-53℃」と表示されたスマートフォンの画面を、今も保存しているという。雪で顔を洗う男性(本誌137ページ)は、アノソバにとって、厳しい環境に圧倒されながらも、自然とともに生きる村人の姿そのものなのだ。

※ナショナル ジオグラフィック3月号「シベリア 愛しき最果ての村」では、自分のルーツをたどってシベリアの村を訪ねた女性写真家の物語を紹介します。

文=イブ・コナント