北極圏の永久凍土に水銀、推定5700万リットル

人間が過去30年間で排出してきた総量の約10倍、温暖化で解け出す?

2018.02.09
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10年にわたる研究

 シュスター氏は、USGSで数十年前から大気中の水銀について研究してきた。1990年代には、米ワイオミング州のウインドリバー山脈にある氷河から氷のサンプル(アイスコア)を採取。産業革命以前までさかのぼって、水銀の沈着を記録した。この調査は最終的に、連邦当局の説得に役立ったとシュスター氏は振り返る。つまり、人為的に排出された水銀が大きく増えたことを示して、石炭を燃やす施設に対し水銀除去装置の使用を義務付けるべきだと、国に訴えたのだ。

 その後、シュスター氏はアラスカ州のユーコン川流域に足を向けた。そこで気付いたのが、永久凍土にどれだけの水銀が蓄えられているのか、これまで誰も測定を試みていないことだった。それどころか、この地に大量の水銀があるだろうとは全く考えない専門家もいた。

 2004年から2012年にかけて、シュスター氏らの研究チームは、アラスカの各地で13を超すアイスコア試料を集めた。アラスカで得られた結果が北極圏全体の永久凍土の推定に使えるように、採取地を選び、何年もかけてモデルを完成させた。

 結果は、北極圏の永久凍土はおよそ5700万リットルもの水銀をため込んでいるというものだった。海、大気、北極圏以外の全ての陸地に含まれる水銀を合わせた量の少なくとも2倍だ。「極めて高い濃度でした。我々の予想を大きく超えていて、大変驚かされました」とシュスター氏。

 大きな疑問は、「この水銀にこれから何が起こるのか」だ。

 これらが全て、永久凍土の中に隔離されたままでいるとは考えにくい。凍土が解け始めると、植物が育ち、水銀を取り込む。その植物を分解する微生物が、毒性の強まったメチル水銀を排出する。その一部が水や空気を通じて生態系に広がり、やがて動物の体に入る。

「生物が媒介し、食物連鎖に入る道が開かれます」とシュスター氏は話す。

食べ物に入りこむ可能性は?

 だが、それによるリスクがどれだけ重大かという判断は難しい。

 まず、気温がどれだけ上がるかは、温室効果ガスの排出を人類がどれだけ早く規制できるか、あるいはできないかにかかっている。それによって永久凍土がどれだけ解けるかが決まり、それが放出される水銀の量に影響する。だが、これでも方程式の一部でしかない。(参考記事:「【解説】温暖化で生物は?人はどうなる?最新報告」

「食物網のどこにどれだけ水銀が入り込むのかは、難しい質問です」とシュスター氏。「この研究結果から食物連鎖にまで話が飛躍すると、確かなことは言えなくなります」

 水銀の放出は、まず北極圏の住民や動物たちに対するリスクを高めるだろう。「ですが、北極圏で起こることは、北極圏だけで終わりません」とシュスター氏は話す。「やがて地球全体に散らばっていくでしょう。あちこち移動するのですから」

 要は、人間に一定の影響があるのはほぼ確実ということだ。

 シェーファー氏は、「永久凍土が解けつつあることはわかっています。そこにある水銀の一部が出てくるだろうということも」と話す。「その量がどれくらいか、時期はいつかという具体的な推定は、今はまだできていません。それは次の研究段階です」

文=Craig Welch/訳=高野夏美

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