科学で迫る「善」と「悪」 鍵となる「共感」の能力

人を善行、あるいは悪行に駆り立てるものは何なのか

2018.02.07
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米ニューメキシコ大学の神経科学者ケント・キールは、4000人以上の受刑者の脳をMRIで調べた(Photograph By Lynn Johnson/National Geographic)

 殺人や性的暴行、誘拐や拷問といったおぞましい行動を取る人間がいる。2017年10月には、米国ネバダ州ラスベガスで開かれたコンサートの会場で銃乱射事件が起きた。死者は58人、負傷者は546人にのぼる極めて異常な事件だったが、似たような事件はしばしば発生し、私たちに暗い現実を突きつける。

 私たちは、自己犠牲的な行為や寛大さといった崇高な性質を「善」、それとは正反対の自己中心性や暴力、破壊衝動などを「悪」と認識している。人を善行、あるいは悪行に駆り立てるものは何なのか。米国では脳科学を通じた研究も進められている。

悪行の源は「共感性の欠如」

 ここ数十年で科学的な研究が飛躍的に進み、善悪どちらにも「共感」、すなわち脳に備わる、他者の気持ちを理解する能力が深く関わっているのではないかと考えられるようになった。凶悪犯が取るような行動は、共感の欠如が原因で、その欠如をもたらすのが脳の神経回路の障害とみられることもわかってきた。

 最近になり、ゼロ歳児にも共感する力があることが明らかになってきた。心理学者マーヤン・ダビドフの研究チームが、苦しんでいる人を見たときの幼児の行動を調査・分析した結果、生後6カ月未満でも、多くの子どもが心配そうな表情を浮かべることがわかった。ただし少数ではあるが、1歳を過ぎた頃から、専門家が「積極的な無視」と呼ぶ行動を取る幼児もいる。

 また、青年期における冷淡さや感情の喚起の欠如を測定した研究もある。「悪いことをしたときに後悔するか」などの質問を通じて調べた結果、「冷淡で感情を欠く性質」のスコアが高いほど、深刻な問題行動を頻繁に起こしがちであることがわかった。

 「共感性の欠如」が幼児期までさかのぼって観察されるのであれば、人を悪行に駆り立てるものは、遺伝子なのだろうか。答えはイエスともノーとも言いきれない。双子の研究では、幼児期から青年期に見られる「冷淡で感情を欠く性質」は、相当な部分が親から受け継いだ遺伝子の影響であると証明されている。だが、反社会的な行動を取った母親から生まれた561人の子どもを対象とした調査では、愛情深い里親の下で育てられた場合には、「冷淡で感情を欠く性質」を示す確率がはるかに低くなると判明した。

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