北極海の氷が消える、残された時間は

氷の世界にすむ動物たちを守れるか

2018.01.30
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カナダのバフィン島北岸の沖で、6月の太陽に照らされて、海氷とその上に積もった雪が緑がかった青色の池へと変わっていく。北極海では年間を通して氷に覆われる海域が急激に縮小している。PHOTOGRAPH BY BRIAN SKERRY

 雪と氷に包まれた極北の光景は、数十年もしないうちに見られなくなるかもしれない。少なくとも、夏のカナダ北部では難しくなるだろう。地球温暖化が進むにつれ、夏の海氷と、その環境に適応して暮らしているホッキョクグマやアザラシ、セイウチ、クジラ、ホッキョクダラ、甲殻類、海氷藻類などの生物が姿を消すかもしれないからだ。

 1980年代の衛星写真を見ると、北極の海氷は、夏の終わりになっても平均750万平方キロにわたって広がっていた。しかし現在までに、そのうち250万平方キロ以上が失われてしまった。気候モデルを使ったシミュレーションによると、2050年代までに、夏でも解けない海氷の面積は52万平方キロを下回る。それらははるか北方の狭い海域、すなわちグリーンランド及びカナダのエルズミア島の北側にとどまるだろう。その縮みゆく海氷が、北極にすむ多くの野生生物にとっての“最後の砦”になるのだ。

「そこには、海氷の縁を生息場所とする動物たちが集まるでしょう」と、ナショナル ジオグラフィック協会の「原始の海プロジェクト」を率いる海洋生態学者のエンリック・サラは言う。

 サラはダイバーや映像作家とともに、カナダのバフィン島にやって来た。島周辺の消えゆく氷の世界を記録し、極北の「最後の氷」の保護を訴えるためだ。10年前の発足以来、「原始の海プロジェクト」は800万平方キロほどの海洋の保護に貢献してきた。だが北極海の氷を守る活動は、同プロジェクトにとって最も野心的なものとなりそうだ。グリーンランドとカナダの協力も不可欠となる。

「人々は北極というものを理解していません」と、米コロンビア大学などに籍を置く海洋学者のステファニー・ファーマンは言う。「北極の氷は動かず、端だけが解けると思っています。北極が動的だとは考えもしないんです」

 彼女によると、かつての気候モデルの中には、地球が暖まるにつれて北極の氷は南端から均等に解けていき、最後は北極点の周辺だけになるとするものもあった。「それはまるで道理にかないません」とファーマンは言う。「氷が北極点に集まる理由はないのです。何かにぶつかるまで動き続けるはずです」

 北極海の氷は今後数十年間は激減するだろうが、夏でも消えない細長い海氷の帯が今世紀後半まで残ると考えられている。地球を温める化石燃料への依存を断つことができれば、さらに長期にわたって生き延びる可能性もある。その頃には、大気中の二酸化炭素を取り除き、地球を冷やす方法が見つかっているかもしれない。

「海氷がまったくなくなると予測する気候モデルはありません」とファーマンは言う。「氷は消滅する運命にあるのだから、もはや手の施しようがないと言う人もいます。しかしモデルを見る限り、氷は急減した後も、細々と残ります。その氷が私たちに行動するための時間を、そしてうまくすれば温暖化を緩和するための時間を与えてくれる可能性があるのです」

 北極に残る氷は、それを頼りにする生物にとって、狭いながらも安定した生息場所となるかもしれない。

※ナショナル ジオグラフィック2月号特集「北極海 最後の氷」では、北極海の海氷とそこにすむ動物たちに起きている変化を報告します。

文=ティム・フォルジャー

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