仮装して仮面舞踏会へ。このような祭典があるのはイタリアのベネチアだけだ。(PHOTOGRAPH BY GUILLEM LOPEZ, AURORA)
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 ベネチア・カーニバルが誕生した時期については、11世紀という説や12世紀という説がある。しかし、「匿名者(インコグニート)」の祝祭として始まったことは間違いないようだ。貧富を問わず、すべての人が仮面と衣装をまとい、思い思いの人物像を演じた。そして、変装によって、年に一度だけの自由を手に入れた。この匿名性があまりに魅力的だったため、18世紀まで、多くの人が6カ月にわたって仮面を身に着けていた。(参考記事:「カーニバルの衣装」

 1797年、ベネチア共和国がオーストリアの支配下に入ると、新しい統治者たちはカーニバルと仮面の両方を法律によって禁じた。1930年代にも、ファシスト政権が宗教的なルーツを持つ祝祭を禁止した。しかし、ベネチア市民が変装への欲求を失うことはなかった。そして1970年代後半、200年近くの中断を経て、カーニバルは復活した。衣装や仮面を作るメーカーの尽力もあり、カーニバルは毎年開かれ、300万もの人々がベネチアを訪れている。(参考記事:「【動画】イタリアの不気味な仮面祭り」

カーニバルはベネチアが最も盛り上がる祭典だ。(PHOTOGRAPH BY DAVE YODER, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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カーニバルの精神を体験する方法

 過ぎし時代のベネチア市民がしていたように、衣装と仮面を身につけてみよう。毎年訪れるつもりであれば、一式購入するのもよい。心の準備ができていない人は、レンタルも可能だ。ベネチア市内には、衣装や小物を製作するアトリエがいくつもあり、刺しゅうを施したスマートフォンケースまで購入できる。旅の仲間がいる場合は、そろいの衣装をレンタルしてもよいだろう。(参考記事:「ブルガリアの伝統息づく国際仮装大会11点」

 レンタル料金は24時間で200~1500ユーロ(約3~20万円)。ダン・ブラウンの小説「インフェルノ」に出てくるアトリエ・ピエトロ・ロンギでも、あまり知られていないアトリエでも、料金は変わらない。仮面は別売りだが、思い出の品として買う価値は十分ある。カーニバルの復活に尽力した地元の職人を応援するため、ベネチア製の仮面を探してみよう。(参考記事:「観光客の波がベネチアを台無しにする?」

衣装と仮面をまとい、ベネチアの海辺でポーズをとる2人。(PHOTOGRAPH BY GUILLEM LOPEZ, AURORA)
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 衣装と仮面をまとって何をするかは予算次第だ。ほとんどの公式イベントは無料だが、セキュリティーチェックを通過するという意味でも、かさばるドレスで過ごす場所を見つけるという意味でも、早めに出かけたほうがよい。ぜいたくしたいなら、仮面舞踏会に参加したり、名所の一つ、18世紀創業のカッフェ・フローリアンで高級カプチーノを飲んだりしてみるといい。予算が限られているのであれば、ベネチア室内合奏団がサンビダル教会で開催するビバルティのコンサートに足を運ぶとよいだろう。(参考記事:「恒例のベネチア冠水、その対策は?」

 ただし、最もおすすめの方法は完全に無料だ。衣装に着替えたら、サン・マルコ広場に行き、好きな場所に立つだけ。あなたはすぐに有名人になるだろう。見知らぬ人たちが写真を撮影するため、あなたに近づき、子供とポーズをとってほしいと頼んできたり、一緒にセルフィーを撮ったりするはずだ。あなたの仕事は、ベネチア流のやり方で写真撮影を承諾すること。ミステリアスな笑顔で優雅に会釈すればいい。しばらくすると口が痛くなるかもしれないが、人生で最高のひとときを楽しむことができるはずだ。1日だけ別人を演じ、インコグニートになる自由に勝るものなどあるだろうか?(参考記事:「外国人写真家が撮った「妖怪の島、ニッポン」」

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