アゴダチグモ科の新種、Eriauchenius workmani。タワーのように頭部が高くなっており、あごが下に向かって伸びる。体長約1センチで、米粒よりわずかに大きいだけだが、科の中では今のところ最も大きい。(PHOTOGRAPH BY HANNAH WOOD, SMITHSONIAN)

 マダガスカルの熱帯雨林には、クモを狙う殺し屋がうろついている。

 フクロウのように静かで、コブラのように素早く、米粒のように小さい。狙いを定めた相手をあごで突き刺すが、あごというより毒槍に近い。

 殺し屋は突き刺した獲物をつり下げると、捕らわれたクモの目がやがて光を失い、力尽きる。

 実は、クモ殺しに特化した彼ら自身が、アゴダチグモ科というグループのクモだ。英語では狩りの手際から「暗殺グモ」とも、巨大なあごが海鳥のくちばしに似ていることから「ペリカングモ」とも呼ばれる。(参考記事:「クモのお尻がピカチュウ! 獲物をゲットするため?」

 呼び名はどちらでも構わない。大事なのはこのクモそのものだ。

 米スミソニアン国立自然史博物館でクモの仲間と多足類を担当する学芸員、ハンナ・ウッド氏の新しい論文が、1月11日付けの学術誌「Zookeys」に発表された。マダガスカルで見つかったアゴダチグモ科の18新種を記載したものだ。(参考記事:「0.00012秒の瞬時に閉じるクモのあごの謎を解明」

 これらの種を野生で観察してきたウッド氏は、早足で通り過ぎていくクモをひったくるようにアゴダチグモが捕らえることもあると話す。また、アゴダチグモは巣をかけないが、別のクモの巣の周囲をうろついているのがときどき見られるという。(参考記事:「「暗殺虫」の襲撃テクニックを解明」

「アゴダチグモは巣の一部を引っ張り、狙ったクモを自分のほうへ来させます」とウッド氏。

仕留めたクモを逆さにつり下げるアゴダチグモ。マダガスカルで撮影。(PHOTOGRAPH BY NIKOLAJ SCHARFF)

謎だらけの生態

 アゴダチグモ科のクモは、マダガスカル、オーストラリア、南アフリカが原産だ。巨大なあごで獲物を突き刺した上、先端から毒を出し、獲物に毒が回るまで空中につるしておくことができる。その様子は、フックにぶら下がった食肉のようだ。

 獲物をあごの長さ以上に近づけないことで、アゴダチグモは毒のある相手から反撃を受けないようにしているとウッド氏は推測している。

 またウッド氏は、ほとんどのクモが歩くときに出している命綱の「しおり糸」を、アゴダチグモがたどれるのではないかと考えている。

「アゴダチグモは夜に森の中を歩き回りながら、一番前にある1対の脚を大きな8の字を描くように動かします。この脚がアンテナのようになっていて、しおり糸を探しているのではないでしょうか」

「彼らはいわば、森にいて他のクモを捕らえている小さなオオカミです」とウッド氏。

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