粘液を吹き付けられ、退散するサメ 科学者たちがヌタウナギの護身術を初めて記録した映像。攻撃を受けると、体にある数百の放出孔から粘液が分泌された。(解説は英語です)

 地球上で3億年の時を生き抜くために必要なこととはなんだろうか。

 その秘訣はたとえば、皮膚の孔から粘液を出す能力かもしれない。まさしくそうした方法を使って生き延びてきたのが、ウナギによく似た生物のヌタウナギだ。

 捕食者に噛み付かれたヌタウナギは、体からタンパク質の粘液を一瞬にして放出する。この粘液は海水と混ざると膨張し、ヌタウナギに噛み付いた不運な捕食者はエラをつまらせてしまう。粘液で撃退できなかった場合でも、ヌタウナギには4列に並んだギザギザの大きな歯という凶暴な武器があり、彼らはこれで相手の肉を噛みちぎることができる。(参考記事:「脊椎動物の強力な武器「顎」はどのように誕生したのか」

 この護身術が非常に効果的であることは、2011年に行われた実験によって証明されている。餌を付けた水中カメラを海底に降ろし、魚を驚かせない青いライトで周辺を照らしたところ、カメラに映し出されたのは、ヌタウナギを狙ってやってきた捕食者たちがことごとく撃退される様子だった。

 学術誌「Scientific Reports」に掲載されたこの実験に関する論文にはまた、ヌタウナギが従来考えられてきたよりも活発な捕食者であることが記されている。それ以前には、ヌタウナギの捕食に関しては、他の生物の死骸の中に潜り込んでその肉を食べることしか知られておらず、一般的には彼らは腐肉を食べる動物と認識されていた。(参考記事:「【動画】深海魚のヌタウナギ、驚異の7つの異能力」

穴が開かないか、穴が開いても致命傷にならないか

 カナダ、オンタリオ州にあるグエルフ大学の研究グループは、このとき撮影された動画を参考に、攻撃を受けたヌタウナギが最初、どのように捕食者の歯を逃れるのかを検証し、その成果を12月13日付けの学術誌「Journal of The Royal Society Interface」に発表した。

 ヌタウナギが粘液を放出するのは必ず攻撃を受けてからだ。したがって、最初の一撃で致命傷を負ってしまっては元も子もない。サメなどの大型魚による最初のひと噛みをヌタウナギはどうやって切り抜けているのか。その謎を解こうとした研究チームは2つの仮説を立てた。ヌタウナギは穴が開きにくいような皮膚をもっているか、あるいは、体の造りがゆるくたるんでいるせいで、捕食者の歯が筋肉や内臓に届きにくいかだ。

 検証の結果判明したのは、ヌタウナギの皮膚は穴が開きにくいわけではなく、皮膚がダブダブにたるんでいるために、捕食者の歯がダメージを与えにくいということだった。このダブダブの皮膚は、ヌタウナギが自分自身の体で結び目を作ったり、狭い空間に潜り込んだりする上でも役立っている。

 そして、ヌタウナギの皮膚に捕食者が実際に接触すれば、彼らはストレス反応により一瞬にして大量の粘液を放出する。(参考記事:「ヌタウナギの粘液が環境志向の繊維に」

 2017年7月には、ヌタウナギの粘液のせいで米オレゴン州でひどい交通渋滞が引き起こされた。ヌタウナギを漁港から運んでいたトラックが横転事故を起こしたのだ。事故で放り出されたヌタウナギが大量の粘液を放出し、道を走っていた車はその場に立ち往生させられた。(参考記事:「【動画】ヌタウナギが散乱、車や道が粘液まみれに」

 道路の清掃には、小型のブルドーザーが駆り出されたほどだった。

文=Sarah Gibbens/訳=北村京子