中南米に残るジャガー信仰、人をのみ込む秘薬

先住民にあがめられる一方、その優美な姿がジャングルから消えつつある

2017.11.29
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自動撮影カメラがとらえた、生後10カ月ほどの幼いジャガー。幼い頃から母親について、木に登る練習をする。ここ、ブラジルのパンタナール大湿原は世界最大の熱帯湿地で、彼らに残された最後の生息地の一つだ。PHOTOGRAPH BY STEVE WINTER

 南米ペルーのジャングル。儀式を始めるに当たり、シャーマンのマエストロ・フアン・フロレスは、使い古しのペットボトルに、マルバタバコの煙を吹きかけた。ペットボトルの中の液体は、飲む者をジャガーの精霊の世界へと導く秘薬だと信じられている。

 この草ぶきの小屋が立っているのは、地元で「煮えたぎる川」と呼ばれる、熱水が流れる川のほとり。儀式には、米国、カナダ、スペイン、フランス、アルゼンチン、ペルーから、28人が参加していた。難病を治してもらいたいという人もいれば、生きる指針を探しに来た人、非日常的な世界をひと目見たいとやって来た人もいる。

 この一帯は、野生ネコ科動物の保護団体「パンセラ」を主宰する動物学者アラン・ラビノビッツが、「ジャガー文化の回廊」と呼ぶ地域で、パンセラが保護に取り組む推定10万頭のジャガーが生息している。

 プラスチック製の小さな杯に取り分けられた秘薬が静かに運ばれてきた。私がその場にひざまずくと、弟子の一人が私に杯を手渡した。私は一瞬、飲むのをためらった。数日前、ペルー中部の都市プカルパで、著名なシャーマンに言われたことを思い出したのだ。

「人間が秘薬をのみ込むのではなく、秘薬が人間をのみ込むのです」
 私は杯の中身を飲み干した。

二つの顔をもつジャガー

 ジャガーは南北米大陸に生息する肉食獣の頂点に君臨する動物だ。王者の風格を備え、どう猛で、どの動物より巧みに獲物に忍び寄り、自在に川を泳ぎ、ジャングルを移動し、木に登る。体の大きさで相対的に比較すると、かむ力は大型ネコ科動物のなかで最も強い。獲物の喉ではなく頭部にかみつくのが特徴で、大抵はその牙で脳まで突き破って一気に殺してしまう。

 一方、数千年間にわたり、ジャガーは別の役割も果たしてきた。コロンブスの到来以前、米国南西部からアルゼンチンにかけて栄えた文化圏では、ジャガーを象徴とする芸術作品や遺跡が数多く見られる。

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