ヌーの大量溺死が川を育んでいた、研究発表

アフリカ、危険な川渡りで毎年6000頭が溺死

2017.06.22
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【動画】ヌーの大量溺死がマラ川を育む(解説は英語です)

 アフリカの草原を毎年、大移動するヌーの群れ。その大量溺死が、タンザニアとケニアを隔てるマラ川の貴重な栄養源になっていることが判明、学術誌「米国科学アカデミー紀要」に発表された。

大移動の意外な脅威

 ヌーは群れをなし、タンザニアとケニアにまたがるサバンナを、巨大な円を描くようにして移動する。その数は100万頭以上、距離は1600キロに達し、行く手にはワニやライオンといった捕食者たちが待ち構えている。(参考記事:「動物大図鑑 ヌー」

 しかし、陸上を移動するヌーにとって、意外にも大きな脅威となっているのが溺死。大挙してマラ川を渡る際、多くが流れにさらわれて命を落とすのだ。

毎年、100万頭以上のヌーが円を描くように東アフリカの草原を大移動する。その際、数千頭のヌーがマラ川を渡りきれずに命を落とす。(PHOTOGRAPH BY NORBERT WU, MINDEN PICTURES, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 実際、年間でどれくらいのヌーが死んでいるのだろうか。今回、研究者が初めてその数を推定してみたところ、平均で6250頭、重さにすると1100トンにおよぶことがわかった。これはシロナガスクジラ10頭分に匹敵する。

 それだけではない。溺死したヌーの死体は腐敗して、河川の重要な栄養源になっていることも明らかとなった。「大量溺死が起きたとなると、私たちは何もかも放り出して死体を調べるのです」と、今回の研究を率いた米ケアリー生態系研究所のアマンダ・スバルスキー氏は語る。(参考記事:「動物の大量死が増加、過去70年の傾向を調査」

死体が川に溶け込むまで

 1100トン以上ものヌーの腐乱死体がどのように川の生態系に寄与しているのかを研究しようというのは、大変な作業である。

 スバルスキー氏の研究チームは、溺死したヌーの死体を川から引き上げ、解剖して正確な栄養成分を調べた。また、ワニ対策を施した特製の保護ケージにヌーの体の一部を入れて川に沈めた。皮膚や肉、骨がそれぞれ自然環境の中でどれくらいの時間をかけて腐敗するのかを分析するためだ。

 さらに川の水と魚の化学成分を測定し、ヌーの栄養がどれほどそうした生態系に取り込まれているかも調べた。ワニに食べられる量はほんのわずかであることもわかった。スバルスキー氏は、ワニにも食べられる限界があると説明している。

マラ川の岸に積み重なった夥しい数のヌーの死体。川の水量が増し、流れが速い時期に、大量のヌーが溺死する。(PHOTOGRAPH BY AMANDA SUBALUSKY)
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大量溺死の遺産

 ヌーの溺死体の中でも、生態系への貢献度が高いのは骨である。ヌーの骨は完全に分解するのに約7年がかかり、ゆっくりと時間をかけてリンを排出する。リンは、植物や動物の成長に欠かせない。また、骨の表面はバイオフィルムと呼ばれる微生物の膜で覆われ、これが川の魚のエサとなる。

「川で死んだ動物の骨が何十年にもわたって生態系に栄養を与え続ける。大量溺死の遺産とでもいうべきものです」と、スバルスキー氏は言う。ナショナル ジオグラフィック協会は、スバルスキー氏が米エール大学在籍中に、その修士研究を支援していた。

 米スミソニアン自然史博物館の地球化学者ケンドラ・クリッツ氏は今回の成果について、タイムリーな研究だと話す。ヌーの生息数が減ったり、大移動の規模が縮小した場合の影響が明らかになるためだ。クリッツ氏は、今回の研究には加わっていない。(参考記事:「動物たちの地球大移動」

「アフリカでは、人口増加や土地利用の変化によって、大型哺乳類が昔のように移動をしなくなったり、移動距離が短くなってしまう例が数々あります」と、クリッツ氏は指摘する。

 セレンゲティでも幹線道路の建設計画が持ち上がり、ヌーの移動が阻害されることが懸念されていたが、計画は頓挫したためにその心配はなくなった。世界には、スプリングボックやバイソンなど、移動規模が縮小したり完全に移動を止めてしまった大型動物もいる。(参考記事:「セレンゲティ国立公園に道路建設計画」

釣り合わない数字

 今回の研究では、ヌーの栄養分の約半分が川の生態系に取り込まれていることが計算で明らかとなったが、残りの半分の行方は定かではない。「ヌーの体の炭素と窒素のうち約半分が、どうなっているのかわかっていません」と、スバルスキー氏は説明する。(参考記事:「多様な海洋生物を育むクジラの死骸」

 化学分析によると、川に取り込まれた栄養分のうち一定量を魚が食べていることは判明したが、その量もはっきりとはわかっていない。

 陸上の動物たちの移動が水中の生態系に大きな影響を与えるという今回のような概念は、比較的新しく、さらなる研究が必要だと、スバルスキー氏はいう。

「これまで、ヌーの死体は一度に大量に現れてすぐに消えてしまうものとしか考えられてきませんでした。今回の研究によって、もっと大きなスケールで考えるべき問題だと認識が新たになりました」

文=Shaena Montanari/訳=ルーバー荒井ハンナ

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