米国のウナギビジネスに未来はあるか

特別レポート:米国ウナギビジネスの闇(3)

2017.06.22
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「特別レポート:米国ウナギビジネスの闇」の最終回。アジアのウナギ需要がきっかけで、米国でもゴールドラッシュならぬ「ウナギラッシュ」が勃発、闇取引も横行している。米国東海岸のウナギビジネスを追った。

第1回 ウナギ闇取引を摘発、親玉は「ウナギ漁の父」
第2回 ウナギ版ゴールドラッシュに狂奔する漁師たち

メーン州エルズワースのユニオン川で、1日2回の干潮の度に袋網を点検するアダム・ドラゴン氏。下流側が開いた長い漏斗状の網で、シラスウナギを捕獲する。(PHOTOGRAPH BY SARAH RICE, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 漁業委員会がシラスウナギ漁への締めつけを強めていたころ、合衆国政府は複数の州で潜入捜査を始めた。シラスウナギの英名、グラスイールにちなんだ「割れガラス作戦」(Operation Broken Glass)によって、東海岸の各地でシラスウナギのロンダリングと違法取引スキームに関わる人々を取り締まろうとしたのだ。

割れガラス作戦

 取引業者は禁漁地域からシラスウナギを買い、別の場所に運んで、合法に捕獲されたシラスウナギと混ぜる。さらに、発送に必要な書類に手を加え、アジアに輸出していた。

 2014年3月17日、サウスカロライナ州ラフィンで、8ポンド(3.6キロ)近いシラスウナギが入ったパッケージをヤラン・イム氏(35)が購入。だが売ったのは、米国海洋大気局(NOAA)の覆面捜査員だった。イム氏は捜査員に3450ドルの小切手を渡し、3日後に合計38ポンド(約17.2キロ)、2万5000ドル相当のシラスウナギを、マサチューセッツ州ボストンを経由して香港の輸入業者に船便で送った。

 続く数週間で、イム氏は同様の購入を繰り返し、中国はじめ各地にシラスウナギを輸出。取引額は50万ドル超に上っていた。

 摘発者はイム氏を含め10人以上に上り、さらに増える可能性もある。連邦の捜査関係者は、現在進行中の捜査については話せないと口をそろえている。(参考記事:「国際的な絶滅危惧種となったウナギを救う、二つの「劇薬」」

不漁の夜でも

 干潮を迎えた朝8時半ごろ、メーン州エルズワースを流れるユニオン川の河口近くには灰色の空が広がり、冷たい霧雨が降っていた。ポール・ドラゴン氏の息子、アダム氏は袋網の片方をほどき、夜の間にシラスウナギがどれだけかかったか目をこらした。アダム氏は44歳。やせていて動作に無駄がなく、あごの無精ひげには白いものが交じっている。緑のアウトドアジャケットを着て灰色のスカルキャップを被り、腰まである長靴をはいていた。

1ポンドあたり、シラスウナギの数は約2000匹。多い時で100ポンド(約45.3キロ)のシラスウナギを詰めた箱が船でアジアに運ばれ、養殖場に売られる。(PHOTOGRAPH BY SARAH RICE, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 アダム氏は網をゆすり、身をよじるシラスウナギを白いバケツに移した。「前の晩よりだいぶ減りました。今までで2番目に少ないかもしれません」。それでも、不漁の夜を補えるほどの豊漁は珍しくない。「先週3ポンド(約1.4キロ)捕れたときは、『だからシラスを捕ってるんだ』という感じでした」とアダム氏。彼の推計では、3ポンドでシラスウナギ7500匹くらいだろう、ということだった。

 アダム氏は、シェルドン氏よりも後に参入してきた2つの業者と主に取引している。だが、どちらにも連絡がつかなければ、クォンセット・ハットのシェルドン氏を訪ねる。

 シェルドン氏は、ぬるぬるしたシラスウナギ入りの袋をひねって、絞り袋からクリームを出すような動作で水を出した。そして金属製のボウルに移す。重さは1.15ポンド(522グラム)。「5日後には中国に着いているでしょう」とシェルドン氏は言い、データをコンピューターに打ち込んだ。「バイヤー:ビル・シェルドン。港:エルズワース。重量:1.150ポンド。単価:1300ドル/ポンド。合計:1495ドル」。シェルドン氏からアダム氏に小切手が手渡された。

 現金のやり取りを禁じる決定について、「バイヤーにとっては安全になりました」とシェルドン氏は言う。全ての売買がリアルタイムで記録されるため、取締機関はアジアでの引き渡しまで含めた全過程を監視できる。

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