【動画】サンゴ食べる魚の謎解明、ヌルヌルの唇で

まるで「キス」のように吸引、クロベラの一種、オーストラリア

2017.06.07
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【動画】粘液を分泌する唇を使って、クロベラの一種(Labropsis australis)はサンゴの肉を食べることができる。

 自撮り写真を撮る際に、唇を突き出した表情を作る人はよくいるが、熱帯魚の中には、生存戦略として唇を突き出しているものがいる。

 6月5日付けの科学誌「Current Biology」に発表された論文によると、インド洋や西太平洋にすむクロベラ属の一種(Labropsis australis)は、粘液でヌルヌルとさせた唇を武器に、毒針を持つサンゴを食べているという。

 サンゴは一見、やわらかくて害がなさそうに見えるかもしれないが、餌にするには手強い相手だ。サンゴの骨格は先端が鋭く尖っており、その上に被さる本体は、無数の毒針と粘液で覆われている。こうした理由から、論文によるとサンゴ礁に生息する約6000種の魚のうち、サンゴを食べる種は128種しか報告されていない。およそ98パーセントの魚がサンゴを食べるのを避けていることになる。(参考記事:「動物大図鑑:サンゴ」

 ただし、このクロベラの一種は例外だ。彼らの唇は「きわめて肉厚で前に突き出ており、口を閉じているときには筒状になっています」。論文の共著者である、オーストラリア、ジェームズクック大学のデビッド・ベルウッド氏はそう述べている。(参考記事:「深海で「悪夢のような」新種のアンコウを発見」

「拡大して精査したところ、クロベラの唇には、まるでキノコのかさの裏側のように、たくさんのひだがあることがわかりました。ただし違いは、表面が粘液で覆われている点です」

口をすぼめて肉厚の唇をサンゴに押し付け、その粘液と肉を吸い取るクロベラの一種。(PHOTOGRAPH BY VICTOR HUERTAS AND DAVID BELLWOOD)
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「チュッ」という音も

 ベルウッド氏と同僚のビクトル・ウエルタス氏は、クロベラと、サンゴを食べないベラの両方の口と唇について、走査型電子顕微鏡による観察を行った。

 どちらの魚も歯と顎の骨は似ていた一方で、唇は大きく異なっていた。クロベラの唇には中央から外へ向かって伸びる薄い膜組織が大量に見られたが、もう一方の種の唇は薄くてツルリとしており、膜組織は存在しなかった。(参考記事:「サンゴを噛み砕いて食べる魚ブダイ」

 次にクロベラの唇をごく薄く切り取って内部構造を調べたところ、そこには粘膜を分泌する細胞が詰まっていた。

 さらにベルウッド氏らは、サンゴを食べている最中のクロベラを高速カメラで撮影した画像の分析を行った。クロベラはサンゴにほんの一瞬唇を付けて、力強く吸引する。その動作はまるで「キス」のようで、実際に「チュッ」という音が聞こえる場合も多い。(参考記事:「サンゴの「キス」を撮影、新開発の海底顕微鏡で」

 彼らはサンゴを適当につついているというよりは、ごく狭い範囲のサンゴを口でしっかりとふさいでおり、これはおそらくサンゴの粘液と肉を効率的に吸い取るためだと思われる。(参考記事:「サンゴの楽園に生きる、デビッド・デュビレの世界」

クロベラの唇の拡大画像。(PHOTOGRAPH BY VICTOR HUERTAS AND DAVID BELLWOOD)
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「粘液の魔法」の真相は

 ベルウッド氏らは、粘液に覆われたクロベラの唇が、サンゴの毒針に対抗する保護膜となり、同時に食べ物を吸い込む作業を助けているのだろうと考えている。

 これが説得力のある推測ではあることは否めないが、その真偽を検証するのは容易ではない。米カリフォルニア大学デービス校の魚類生物学者ピーター・ウェインライト氏は、この件は今のところ「興味深い謎」と呼ぶのがふさわしいだろうと述べている。

「この論文は、魚がどのようにサンゴを食べるのかに関する我々の知識を大いに広げてくれました。サンゴを食べるというのは、サンゴ礁にすむ魚の行動の中でも、極めて珍しい部類に入るものです」(参考記事:「豊かなサンゴ礁に魚の「尿」が不可欠、漁で打撃も」

 ベルウッド氏らが次に目指すステップは、「粘液の魔法」についてさらに掘り下げ、この物質が正確にはどのようにサンゴを食べるのを助けているのかを解明することだという。

 サンゴを捕食するこのクロベラのような生物を研究することは、保護活動に関わる人々が、海水の酸化と温度上昇によって世界中で減少を続けるサンゴ礁がどの程度の危機にあるのかを評価する上でも役立つだろうとベルウッド氏は言う。(参考記事:「【動画】白化するサンゴの断末魔、原因は温暖化」

「願わくはサンゴにとってのクロベラが、体液をじわじわと奪う吸血コウモリではなく、ちょっとうるさい蚊程度の存在であってほしいものです」

文=Mary Bates/訳=北村京子

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