人肉はカロリー低め、旧人類はなぜ食べた?

ヒト100体よりマンモス1頭のほうが栄養価は高かった

2017.04.11
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共食いの起源

 考古学者は、少なくとも80万年前の初期人類が人肉を食べていた証拠を発見している。人骨を切断したりかじったりした痕跡だけでは、人肉を食べた理由まではわからないが、古代の遺跡からは、人類進化の歴史を通じて共食いがどのくらい広く行われていたかを知るための手がかりが得られる。

 例えば、スペインのグラン・ドリーナ洞窟のホモ・アンテセッサーと呼ばれる初期人類の遺跡からは、バイソン、ヒツジ、シカを解体した骨と一緒に、少なくとも11人の人間を解体した骨が見つかっている。骨はすべて子供か若者のもので、食べられた形跡があった。骨には肉をこそげとった痕跡があったほかに、脳を食べた痕跡もあった。

 解体された人骨は、洞窟内の10万年分に相当する地層から見つかっていて、住人が定期的に人肉を食べていたことを示唆している。(参考記事:「初期人類は日常的に人肉を食べていた?」

後期旧石器時代の遺跡である英国のゴフ洞窟から出土した骨片。ここに住んでいた人々が人肉を食べ、人間の頭蓋骨を儀式に使っていたことを示唆する証拠が見つかっている。(PHOTOGRAPH BY DEREK ADAMS, NATURAL HISTORY MUSEUM)
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 解体された人骨は、同じ方法で処理されたほかの動物の骨と混ざっていた。そのため、この洞窟に住んでいた人々は、食料がなくてやむにやまれず人肉を食べたわけでも、儀式として食べたわけでもないと、一部の人類学者は考えている。

 初期人類にとっての人肉は、ごく一般的な栄養補助食品だったのかもしれない。あるいは、食べられた若者たちはよそ者で、これを食べたのは、自分たちの土地に近づくなという警告のためだったのかもしれない。いずれにせよ、骨からは確実な答えはわからない。

 英ロンドン自然史博物館の人類学者シルビア・ベッロ氏も、初期人類が人肉を食べた理由を知るのは難しいと考えている。「旧石器時代の人々が必要に迫られて人肉を食べた事例はそう多くなかったと考えています」と彼女は言う。「それではなぜ、彼らは人肉を食べることを選んだのでしょう? 選択の理由を明らかにするのは非常に難しいと思います」(参考記事:「長老をいぶしてミイラに、アンガ族の伝統に密着」

人肉を食べた理由は一つではない

 もちろん、必要に迫られて人肉を食べたこともあっただろう。

「ヒトの肉が栄養学的に大型獣の肉の代わりになるかという問題ではないのです」と、米ワシントン大学セントルイス校の人類学者エリック・トリンカウス氏は指摘する。「ほかに食べるものがないときに、いかにして生き残るかという問題なのです。社会集団の誰かが死亡したときに、生きているメンバーがその死体を食べたのです」(参考記事:「名作『白鯨』の元ネタは、もっと壮絶だった」

フランスのアラゴ洞窟で発掘作業を行う科学者たち。この洞窟でも先史時代に人肉が食べられていたと考えられている。(PHOTOGRAPH BY RAYMOND ROIG, AFP, GETTY IMAGES)
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 コール氏の研究は、数人の現代人の分析からヒトの肉の栄養価を見積もったもので、そこからわかることには限界がある。このことはコール氏自身も認めている。そしてもちろん、私たちの祖先は、カロリーを考えて夕食を決めたりはしていなかった。

 今回の研究が本当に意味しているのは、初期人類が人肉を食べた理由は1つではなく、複数の理由があったということなのかもしれない。実際、ここ数百年の人肉食の原因は、戦争、非常事態、信仰、精神病などさまざまだ。

 米ロングアイランド大学ポスト校の生物学教授で、最近『Cannivalism: A Perfectly Natual History(食人の自然史)』を出版したビル・シュット氏は、初期人類は信じられないくらい考え方が柔軟で、ときどき人肉を食べることで生き残ってきたのだろうと言う。

「共食いは多くの動物に見られます」とシュット氏。ヒトも例外ではない。「ヒトがほかの動物と違うのは、儀式、文化、タブーがある点です。私たちは、人肉を食べることは最も悪いことだと、徐々に教え込まれてきたのです」(参考記事:「【動画】衝撃、チンパンジーが元ボスを殺し共食い」

 コール氏は、人肉のカロリーを評価する過程で、精神的な影響も受けたという。「1年ほど前からベーコンが食べられなくなってしまいました」

文=Erika Engelhaupt/訳=三枝小夜子

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