【動画】トラが油圧ショベルの下敷きに(閲覧注意)
トラは重機に押しつぶされて死んだのか? 一部、残酷に感じられる映像を含みます。閲覧にご注意ください。

 人間と動物の縄張り争いで、たいてい負けるのは動物の方だ。先日、トラが油圧ショベルに押しつぶされたように見える衝撃的な動画がインドで報道された。

動きの遅い重機になぜ?

 事件が起きたのは、インド北部、ヒマラヤ山脈のふもとに近いラムナガルの森。トラは近郊のコルベット・トラ保護区から迷い出てきたようだ。

 地元の報道によると、この前日、バリパダブという村でこのトラが2人の人間を襲い、死亡させたという。ショベルの下に近づくトラがよろめいているように見えるのは、鎮静剤が使われていたためと伝えられている。そうであれば、トラがゆっくり動く油圧ショベルから逃れられなかった理由も説明がつく。

 この後、トラは近くのナイニタル動物園に運ばれ、死んだ。そこで作成された検死報告書には、死因として窒息や他のトラによる怪我、敗血症が挙げられている。地元紙は、トラが重機に噛みついて歯を折り、その出血によって窒息したとも報じている。

 行政当局は、森林担当職員と獣医師、野生動物専門家からなるチームを編成し、トラの死因とこのような動物を捕らえるために重機を使うことの是非について検証に乗り出した。(参考記事:「人を襲ったクマは殺されるべきか」

インドのトラ保護の現状

 2011年の調査から、コルベット・トラ保護区は野生トラの生息密度がインドで最も高いことがわかっている。インドでいちばんということは、おそらく世界一ということだ。トラの生息密度が高ければ、縄張り争いで怪我をする可能性も高くなる。しかし、トラが油圧ショベルにつぶされた数時間後に死んでいることから、ネット上には批判の声も上がっている。

 ベンガルトラは、国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種(endangered)に指定されている。世界の野生トラの70%近くがインドに住んでいるため、ここで生息地が減ったり狩猟が行われたりすれば、すぐに大きな影響を受けてしまう。人間はトラにとって最も危険な敵であると同時に、最も頼れる味方にもなりうるのである。

 インドのトラはかつて5~8万頭いたとされるが、2015年の調査によると生息数は2226頭と推定されている。コルベット・トラ保護区を含む「テライ」と呼ばれる一帯ではトラが増えており、昨年は保護区内で少なくとも79頭のおとなのトラが確認されている。(参考記事:「絶滅危機のトラがインドで増加。成功例となるか?」

 ワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)では、トラの国際的な保護が提案されている。インドの国獣でもあるトラは、1973年に始まった国営の「プロジェクト・タイガー」でも保護されており、現在、国立トラ保護局(NTCA)が47のトラ保護区を管理している。(参考記事:「世界の野生トラが回復、過去5年で20%増」

野生動物との共存に向けて

 トラはこのように国際条約で保護されているものの、人口が急増しているインドでは、人間とトラが危険な状況で遭遇することが多い。野生動物と人間との衝突を回避するには、いくつかの手順が考えられる。

 まず科学者らが取れる方法は、カメラトラップ(自動撮影装置)などを使ってトラの生息数を調査すること。トラの縞模様はそれぞれ異なるため、その地域にいるトラを撮影すれば、個体を識別してIDを割り振ることができる。

 NTCAのウェブサイトには衝突回避策がいくつか記載されているが、結局は衝突が起きやすい場所を特定する、新たなトラ保護区を作る、人やトラを移住させるということに集約される。(参考記事:「トラ147頭を飼う寺院がトラを闇取引、タイ」

 インドの人口増加は、ベンガルトラ以外の動物にも影響を与えている。たとえばアジアゾウ。インド自然保護財団のM・アナンダ・クマール氏は、アジアゾウの生息地のそばに住む人々向けにメールによる警報システムを構築した。ゾウの居場所を通知することによって、人とゾウが鉢合わせるのを避けようという試みだ。

 今後のトラの保護が功を奏するかどうかは、NTCA当局の警戒にかかっている。現在、NTCAは罠や鎮静剤を使ってトラを人に近寄らせないようにする方法や、トラを作物や家畜に近づけない構造物を作る方法を推奨している。なお、本記事の執筆時点では、インド政府のコメントは得られていない。

文=Sarah Gibbens/訳=鈴木和博