ノミがハサミムシにヒッチハイク、奇妙な理由

洞窟内での珍しい共生関係を発見、マレーシア

2017.03.08
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コウモリに寄生するノミ、Lagaropsylla signataの雄(上)と雌(下)。スケールバーは0.2ミリ。(PHOTOGRAPH COURTESY MICHAEL HASTRITER)
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 2006年、ある昆虫学者の研究チームが、マレーシア、グヌン・ムル国立公園のディア洞窟に足を踏み入れた。調査の目的は洞窟内にいる昆虫だったが、そこでまず彼らの目を引いたのは、壁中をはい回るハサミムシだった。(参考記事:「ナショジオだから行けた!究極の洞窟」

 そのハサミムシはコウモリヤドリハサミムシ(Arixenia esau)と呼ばれる種で、頑丈な分厚い体をもち、非常に強い力で岩に張りついていた。そして詳しく観察したところ、体にノミがたかっていることがわかった。

奇妙な現象

 これは奇妙な現象だった。これまでに発見された2500種のノミは、94%が哺乳類に寄生し、残りの種は鳥の体にたかる。ハサミムシに寄生するノミなどあり得ないというのが、学者らが抱いた感想だった。

 その考えは正しかった。過去の科学論文を調べたところ、このノミ(Lagaropsylla signata)は、ハサミムシに寄生しているわけではなく、ハダカオヒキコウモリ(Cheiromeles torquatus)の血を吸うために、洞窟の天井へ運んでくれる「送迎バス」としてハサミムシを利用しているらしかった。

 1909年に発表された論文によると、マレーシアの洞窟から数百キロ南に位置するインドネシアのジャワ島で、同種のハサミムシが、コウモリの壊死した皮膚や腺分泌物を食べていたという。

 さらには、このハサミムシの脚には、今回見つかったのと近縁のノミ(Lagaropsylla turba)がたかり、コウモリの血を吸っていたという記述もあった。

 米ブリガム・ヤング大学モンテ ・L ・ビーン生命科学博物館の研究者、マイケル・W・ハストライター氏は、マレーシアの洞窟でもこの論文と同様のことが起こっていると考えられると言う。

 ハストライター氏は学術サイト『Zookeys』に論文を発表し、「非常に近い関係にある2種のノミが、どちらもコウモリヤドリハサミムシを“乗り物”として使う能力をもつに至ったという事実は、単なる偶然とは考えにくい」と語っている。

 もしこれが事実であれば、「運搬共生」と呼ばれる寄生関係が、ノミ、コウモリ、ハサミムシの間で成り立っていることが確認された、世界で2番目の事例となる。

ノミの過酷な一生

 ハサミムシの体を使ってヒッチハイクするというアイデアは、コウモリの血を吸って生きるノミがどんな困難に直面しているかを考えれば理解できる。

 ノミの一生は、地面の上で卵から幼虫がかえるところから始まる。脚のない幼虫は、ノミが得意とするジャンプができないため、土の上をはいずり回り、そこで見つけたものを口にする。

【参考動画】洞窟の天井にぶら下がり、空中でコウモリを捕まえるヘビ (解説は英語です)(参考記事:「洞窟にぶら下がるヘビがコウモリを襲撃」

 やがてさなぎを経て成虫になったノミは、寄生する相手を探し始めるが、コウモリを宿主とするノミにとって、これは言うほど簡単なことではない。

「ディア洞窟は広大で、こうした運搬共生関係を通じて天井にいるコウモリに接触しない限り、ノミが生活環を完成させることは不可能です」とハストライター氏は言う。

 言うまでもないことだが、ノミも何かを食べなくてはならない。ディア洞窟の名称は、その入り口付近でシカ(deer)が目撃されることに由来するが、洞窟の奥深くにいる生物はコウモリか節足動物ぐらいで、ノミの食料源となりそうなのはコウモリしかいない。

「寄生は、最も多様な生物に見られる習性ですが、寄生生物についてはあまり多くのことがわかっていません」。アメリカ自然史博物館の進化生物学者で、コウモリとその寄生生物に詳しいケリー・スピア氏はそう語る。

「ハエを使って宿主であるコウモリにたどり着くダニもいますが、ハサミムシを使うノミというのは確かに珍しい例でしょう」(参考記事:「新種の寄生バチを発見、宿主を操り頭を食い破る」

コウモリのポケット

 「naked bulldog bat」(裸のブルドッグのコウモリの意)という英名をもつハダカオヒキコウモリは、その名が示唆する通り、普通のコウモリとはちょっと違う。

ハサミムシの脚にノミが取りついている(右)。ハサミムシにヒッチハイクをして、洞窟の天井まで運んでもらうのだ。(PHOTOGRAPH COURTESY MICHAEL HASTRITER)
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 彼らの肌は黒く、顔は子犬のようで、体にはほとんど毛がない。タイのプリンス・オブ・ソンクラー大学自然史博物館で哺乳類を担当するピパット・ソイソーク氏によると、このコウモリに体毛がないのは、皮肉なことに、寄生虫にたかられるのを防ぐための適応であると考えられるという。

 しかし、このコウモリがもつさまざまな特徴のなかでも、とりわけハサミムシとノミのコンビにとって好都合なのは、おそらく「ウイング・ポケット(翼の袋)」の存在だろう。

 ハダカオヒキコウモリの両脇腹には大きな袋がついており、かつては飛ぶ際に子供を入れるのに使うと考えられていた。しかしその後の研究により、この袋は、洞窟の天井や木の幹をはい回るときに、傷つきやすい翼の先端を収納しておくために使われていることが判明した。

 コウモリに寄生するノミやハサミムシが、このいかにも快適そうなポケットに注目しないはずがない。

「コウモリにしがみついているノミとハサミムシは、当然ながら、その体から振り落とされないために最も安全な場所を求めると考えられます」と、ハストライター氏は語る。

文=Jason Bittel/訳=北村京子

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