100%太陽光発電の島、3カ月たってわかったこと

住民の反応は? 生活は? 世界が注目、米領サモア領のタウ島

2017.02.28
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約2.8ヘクタールの土地に設けられたソーラー発電施設。現在、タウ島の電力をすべてまかなっている。(PHOTOGRAPH BY DANIEL LIN)
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 2017年2月22日水曜日の夕方、米領サモアの外れにある島の1つ、タウ島では、3つある村の住民のほとんどが「ペセ」、つまり教会の聖歌隊の練習をしていた。年に1度、島を挙げて行われる若者たちのステージが迫っており、どのグループも出し物の仕上げに熱が入っていた。

 中でもここファレサオ村は島で最も小さな村であり、聖歌隊は大きなプレッシャーを感じるのが常だ。だが今年は他の村を圧倒すると彼らは信じている。その秘密兵器とは、ディズニー映画『モアナと伝説の海』の劇中歌「もっと遠くへ」だ。これを編曲し、息の合った振り付けも加えて、海を旅する島民の暮らしを表現する。

 近くの民家では、地元の放送局にチャンネルを合わせたテレビがサモアのニュースを伝えている。だが、音量はゼロ。聞こえるのは扇風機の低い作動音と、遠くで練習する村の聖歌隊の声だけだ。ムス・フィアバ・ムティニさんは、タブレット端末を見つめたまま、歌声に合わせて楽しそうにハミングしている。82歳のムティニさんは村の年長者であり、年と共に故郷が様変わりするのを目の当たりにしてきた。

「昔は、ここにたくさんの人が住んでいたものです」と彼女は言う。「でも、1987年にハリケーン・トゥシが来たとき、何もかもが壊されました。多くの人はパゴパゴ(米領サモアの首都)や米国本土に出て行きました」。遠い記憶を思い出し、彼女は間を取ってため息をついた。「この島は、今ではすっかり変わりました」(参考記事:「【動画】ハリケーンの脅威」

 タウ島のような島は、この地球の縮図と言っていい。空間も資源も限られるため、人間社会が成功するかどうかは、それら必須要素を効果的に管理することにかかっている。より持続可能な未来を目指して、タウ島の住民たち数百人は、新しいソーラーエネルギー事業に信を置いている。中には、これが世界中に広まるのを見たいと言う人もいる。(参考記事:「太陽光発電で村の暮らしに電気を!」

カテゴリー5のハリケーンにも耐えられる

 2016年11月、太陽光発電による新しいマイクログリッド(小規模電力網)がタウ島に完成した。これにより、それまで100%ディーゼル燃料だった島全体の発電は、100%太陽光に切り替わった(島の人口は季節によって変動するが、たいてい200人~600人の間だ)。(参考記事:「シリーズ地球:21世紀のスマート・グリッド」

 このソーラー事業を担ったのはソーラーシティ社だ。米カリフォルニア州に本社を置き、イーロン・マスク氏のテスラ社に同じ頃に買収された。800万ドル(約9億円強)の事業に、米国内務省と米領サモア電力局(ASPA)が出資している。(参考記事:「EV市場の救世主? テスラが好調」

ソーラーパネルによる明かりが灯るタウ島、ファレサオ教会。教会員たちが聖歌隊の練習開始を待っている。(PHOTOGRAPH BY DANIEL LIN)
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 島の北岸にある約2.8ヘクタールの土地に5328枚のソーラーパネルが設置され、1.4メガワットの電力を生み出す。電力はテスラの大型蓄電池、「パワーパック」60台に蓄えられる。これで、日光が全く差さなくても最大3日間は島に電力が供給される。(参考記事:「1万基を超す反射鏡 アートな太陽熱発電所」

 パネルの設置は簡単ではなかった。タウ島は米国のカリフォルニア州から約6400キロも離れている。極めて高い湿度と、熱帯の激しい嵐の可能性も考慮しなければならない。その結果、発電システムはカテゴリー5のハリケーンの風にも耐えられる能力を備えたものになった。(参考記事:「温暖化で大規模な嵐の発生数が7倍に」

 それ以前にもタウ島でエネルギー革命が起こったことがあった。1972年だった。ASPAがディーゼル発電施設を建設し、初めて島全体に電力をもたらしたのだ。それまでは、灯油のランタンが夜の主要な明かりだった。小型の家庭用発電機はぜいたく品で、買える世帯はほとんどなかった。多くの人にとって、生活のペースは簡素でのんびりとしていた。

 ディーゼル発電の導入は、タウ島の人々にとって、生き方を変えるのと同じことだった。突然、スイッチを入れるだけで明かりがつくようになり、村の中でも家庭でもできることが飛躍的に増えた。電力によって食品の調理や保存の方法も変わったため、地域の食生活も変化した。間もなく、ディーゼル発電のうなる大きな音が、タウ島を特徴づける音の1つとなった。

「依存」という現代の島の課題

 タウ島ではエネルギーを使う人口が比較的少ないとはいえ、太陽光への切り替えによる化石燃料の節減量は小さくない。ディーゼル燃料にして年間約11万ガロン(約416キロリットル)であり、これを船で輸送する燃料ももちろん不要になる。こうした数字は、同様の再生可能エネルギー事業を島国に導入する際に強い説得力を持ちうる。だが現実には、従来のやり方を一新する案に対して、依然として不安が強い。

「議論に議論を重ねている島はいくつもあります。論点はたった1つ、持続可能性です」。ASPAの技術者の1人、ダニエル・マウガ氏は、数百万ドルを投じた事業を始めるという判断について聞かれ、こう答えた。

「他の多くの島も、同じゴールを目指して努力しています。その中でタウ島は、太陽光によってエネルギーの独立を求めることができ、大きな一里塚を何とか建てることができました」とマウガ氏。(参考記事:「ヴァージン諸島、島国の新エネルギー」

 ディーゼル燃料を燃やすことの環境負荷とは別に、従来の発電にはもう1つ副作用があった。自立性を失ったのだ。代わって、人々は船で運ばれてくる食料、生活必需品、そしてドラム缶に詰まった油に依存することになった。

 必然的に、住民は船の運行スケジュールに翻弄された。補給船は2週間に1度来ることになってはいたが、天候や機械のトラブルによる遅延はしょっちゅうであり、2週間が数カ月に延びることさえあった。食料や燃料が配給制になることも多かった。

 太平洋の多くの島々は、まだ輸入物資やエネルギーへの依存という現実に直面している。

何もかもが変わっているが、混乱はない

 ディーゼルから太陽光に電源を切り替えても、タウ島での生活はこれまでと変わりない。人々は働き、プランテーションの手入れをし、教会に通い、休息し、それを繰り返すという日課を、3つの村の人々は混乱することなく続けている。実際、2016年11月にASPAとソーラーシティ社が公式にソーラー発電施設の「スイッチを入れた」(同時に、ディーゼル発電のスイッチが切られた)とき、島じゅうの電灯はかすかな点滅すらしなかったのだ。

 40年以上前にディーゼル発電所が稼働を始めたとき、村々ではすぐに変化が感じられた。今回、新しいソーラー発電施設は(技術的変化の記念ではあるにせよ)公益事業の消費者にとって人生が一変するような事件にはなっていない。灯油のランタンが電灯のスイッチに変わる方が、ディーゼルが太陽光に変わるよりも、島の日常生活に与えた混乱はずっと明白だった。

 しかし、だからこそタウ島のソーラーエネルギー事業は成功例なのだと、この事業の支持者たちは言う。見えない所で何もかもが変わっているとしても、住民はいつも通りの生活を営むことができ、混乱もない。(参考記事:「【解説】「ソーラー飛行機で世界一周達成」の意義」

 とはいえ、この小島では、自分たちが何か特別なことに参加していると誰もが気付いているように見える。この事業をどう思うかとタウ島の誰かに尋ねれば、皆「燃料の不安定な輸入に頼り切る必要がもうなくなり、安心」「ディーゼル燃料11万ガロンは、決して少ない量じゃない」のどちらかに言及するだろう。

 この事業は、持続可能性の種もまいたようだ。島の学校で、ソーラーエネルギーについて考えてみようと言われた子どもたちは、「環境に優しく」「この惑星を守る」ことになると、流行の言い回しで元気に答える。一方で大人たちは、長期的に財源を節約できてストレスも減る恩恵と考えている。(参考記事:「ソーラー道路の開発進む、仏は5年で1000kmに」

 村の古老、ムティニさんはタブレット端末から顔を上げると、ソーラーパネルは島の未来を照らす助けになるかもしれないと話した。「こういう変化が島で新しく起こるのは、良い恵みだと思います。これで、島に住む人もまた増えるかもしれません」

未来への道のりを示せるか

 ちょうど太古のポリネシア人が、海を島と島を結ぶ一連の道の集まりとみなしていたように、今日のサモア人も、浜辺の向こうにある世界とのつながりを深く感じている。技術、連絡手段、移動手段はいずれも急速に進歩しており、最も遠い島との間でさえ、距離が縮まっているように感じられる。

 タウ島のソーラー事業は、世界中の他の島々で交わされている議論にも有益な情報となるかもしれない。多くの島が、再生可能エネルギーは投資に値するか、技術は信頼できるか、住民はよい反応を見せるのか知りたがっているのだ。

 タウ島の老人たちは、島の将来が遠い昔のあり方に近づいていくことを期待している。人々が自給自足で、環境と調和して暮らしていた時代に。(参考記事:「日本はどう?再生可能エネルギー普及、世界で加速」

文=Daniel Lin/訳=高野夏美

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