フィリピン麻薬戦争、貧民街を狙う姿なき殺人者

衝撃のフィリピン麻薬撲滅戦争レポート(前編)

2017.02.20
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※この記事は、急進的な麻薬撲滅政策をきっかけに大量の死者が出ているフィリピンで、犠牲になった人々とその家族、葬送に焦点を当てたドキュメンタリーです。犠牲者の遺体の写真を複数掲載しておりますので、閲覧には十分ご注意いただきますようお願いいたします(編集部)

後編「フィリピン麻薬戦争、人々の苦しみと悲しみ」はこちら

マニラのパセイ墓地の中にある自宅前に腰掛けるリック・メディナさん(68歳)。ここで、墓の管理をして暮らしている。すぐ近くに埋葬された息子エリカルド・メディナさん(24歳)は、顔を荷造り用のテープで巻かれて殺された。麻薬絡みの殺人事件と見られている。(PHOTOGRAPH BY ADAM DEAN, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 2016年11月、夕方のテレビニュースをつけたリック・メディナさんは、画面の中の道路に転がった遺体を見た瞬間、それが24歳の息子エリカルドさんだとわかったという。フィリピンの首都マニラの静かな通りに打ち捨てられた遺体は、テレビカメラに背を向けており、誰のものとも区別はつかないはずだが、父親の直感だった。

 翌朝、リックさんの娘のジョイさん(26歳)が死体安置所へ行くと、袋に入れられたり、シーツをかけられたりした遺体が8体、床に並べられていた。8人は全員、同じように殺されていたという。頭を粘着テープで巻かれ、アイスピックで胸を何度も刺されていた。この中に自分の弟がいるとは信じたくなかったが、最後の遺体袋を開いた瞬間、彼女は凍り付いた。

 エリカルドさんの遺体は、「麻薬使用者」と書かれた段ボール紙と一緒に置き去りにされていたという。息子は麻薬に手を出したことはないと父親のリックさんは言うが、姉のジョイさんによると少しやっていたらしい。いずれにせよ、エリカルドさんを殺害した者たちは、正当な法の手続きを踏むことなく、殺害に及んだのだ。

麻薬常習者で、売人も少しばかりやったことがあったというアーマン・レハノさん(28歳)の通夜最終日に集まった家族や友人、近所の人々。レハノさんは、2016年7月の麻薬取締法執行停止期間中に警察へ出頭したが、その後バイクに乗った覆面の狙撃犯に射殺された。(PHOTOGRAPH BY ADAM DEAN, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 メディナ一家を襲った不幸は、今のフィリピンでは決して珍しいことではない。この国では2016年、半年以内に麻薬関連の犯罪を撲滅すると公約し、国民の不満を味方につけたロドリゴ・ドゥテルテ氏が大統領選に勝利した。6月30日にドゥテルテ氏が大統領に就任してからというもの、警察のデータによると、少なくとも2200人が警官によって殺され、さらに4000人が正体不明の何者かによって殺害された。金で雇われた殺し屋の仕業という噂もある。(参考記事:「自警団を隠れ蓑にするメキシコの麻薬カルテル」

 全国の殺人件数は7月から11月の間に51%以上跳ね上がった。ドゥテルテ大統領は、公約の麻薬撲滅運動を無期限で延長すると決め、「路上にはびこる密売人の最後のひとりが抹殺されるまで止めない」と誓った。

 被害の多くが集中しているマニラの貧民街では、葬儀の件数も急増し、悲しみに暮れる遺族らの姿が今では日常の光景の一部となっている。葬儀とは本来、残された家族を慰め、地域社会のつながりを深めるためのものだ。しかし、犯人が捕まらないまま死者の数だけが日に日に増え続けているなかで、人々は死者を弔う儀式の中に「正義」や「公正さ」を見出そうとしている。(参考記事:「暴力と破壊が渦巻く「ウクライナ違法琥珀」」

マニラで何者かに射殺されたジェフリー・ジェームス・カストディオさんの遺体を検視する捜査官。警察は、麻薬絡みの殺人事件と見ている。(PHOTOGRAPH BY ADAM DEAN, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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