片目だけ巨大な深海イカの謎を解明

深海は「目の進化の実験場」、それぞれの用途に使い分け

2017.02.14
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【動画】奇妙な目をもつカリフォルニアシラタマイカ(Histioteuthis heteropsis)

 左目は黄色くて大きく、膨らんでいる。しかし、右目は小さく透明。漁師たちは100年以上前から、このヘンな目をしたイカについて不思議に思ってきた。

「不気味なくらい奇妙な目。いったいどうしてこんな目になっているのかと思うでしょう」と、米国ノースカロライナ州にあるデューク大学の生物学者、ケイティ・トーマス氏は語る。トーマス氏は、カリフォルニアシラタマイカ(学名:Histioteuthis heteropsis)というこの動物の研究を率いている。このイカはイチゴにそっくりなので、「イチゴイカ」と呼ばれることもある。

 1970年代に、このイカを研究した生物学者リチャード・ヤング氏はある仮説を立てた。大きなほうの目はかすかな太陽光を検知できるので、上を泳ぐ獲物を見つけるのに便利だという説だ。しかし、このイカは水深1000メートルほどの深海に生息しているため、その生態を解明するのは難しい。(参考記事:「イカの虹色の皮膚、色変化の仕組み解明」

 そこで、トーマス氏のグループは、モントレー湾水族館研究所が遠隔操作の無人探査機(ROV)で撮影した30年分の映像を分析することにした。映像には150体以上のイカが写っていた。トーマス氏はその映像を使ってイカの体と目の向きを測定した。

 そして発見したのは、このイカは大きな左目が上を、小さな右目が下を向くよう常に体を傾けて泳いでいることだ。

 コンピューター・シミュレーションで視覚感度を計算したところ、このような大きな目があれば、上からのかすかな太陽光に照らされた生物を検知する能力が大幅に増加することがわかった。(参考記事:「横に傾いて泳ぐ奇妙なサメを発見」

イカが見る景色

 この論文は、2月13日付の科学誌「英国王立協会紀要B」に掲載されている。研究を率いたトーマス氏は。「目が大きくなれば、感度も上がります。大口径のレンズがついたカメラと同じことです」と説明する。

 しかし、太陽の光は上からしか注がれないため、目が横や下を向いていれば、光を検知することはできない。そのため、「下向きの目にはほとんど光は届かないので、たとえ目の大きさを3倍にしても、視力はほとんど変わらないのです」

「目を作り出して維持するというのは、実は大変なことなのです。そのため、小さな目を成長させても意味がないことはわかるでしょう」

 しかし、下向きの目は下にいる発光生物を見つける際に役立つ。闇の中に潜む捕食者を探すこともできる。

 米国スミソニアン国立自然史博物館のマイケル・ベッチオーネ氏は、「この実に奇妙なイカがどのように2つの目を使い分けているのかは、ずっと疑問でした」と話す。ベッチオーネ氏は無脊椎動物を専門とする動物学者だが、この研究には関わっていない。

「ケイティ・トーマス氏のグループは、深海でこのイカがどのように暮らしているのかを初めて詳細に解き明かしたのです」(参考記事:「カリフォルニアシラタマイカの目の構造」

【参考動画】科学者たちをとりこにした、クリクリ目玉のかわいい海洋生物(解説は英語です)(OET/Nautilus Live)

それぞれの用途に1つずつ

 黄色いレンズがついた大きな目には、もう1つメリットがある。上を泳ぐ獲物を見つけやすいことだ。

 発光する魚の多くは腹の部分が光り、上からの太陽光にまぎれることができる。しかし、トーマス氏によれば、黄色いレンズで短い波長の光を除去すれば、生物発光によるカムフラージュと太陽光とのコントラストが強くなり、上を泳ぐ生物を見つけやすくなるという。

 論文の上席著者であるデューク大学の生物学者ゼンケ・ヨンセン氏は、「深海は驚くべき目のデザインを生み出す自然の研究所です。発光生物を見分けるための目と、周囲の光をとらえる目は別物ですから」と語る。(参考記事:特集「不思議な目の進化」

「この奇妙な目のイカは、それぞれに1つずつ目を使うことにしたのです」(参考記事:「ひとつ目のサメがメキシコで見つかる」

文=Viviane Callier/訳=鈴木和博

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