両脚まひの青年がダイビングで取り戻した自由

「水の中では気分が高揚し、本当の自分に近づくことができます」

2017.02.07
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【動画】両脚の自由を失った男性が、ダイビングを通じて自由を取り戻した。(字幕は英語です)

 メキシコ西部、バハ・カリフォルニア半島の南端に近い町カボ・プルモ。ダイビング用の装具を身につけた男性ティトは、友人の助けを借りてボートから穏やかな海に入ったとき、小さな歓声をあげた。「水の中にいるときには、本当の自分に近づいたような気がするんです」と、彼はあとで教えてくれた。(参考記事:「カボ・プルモ、住民が蘇らせた魚の楽園」

 メキシコのコルテス海(メキシコ本土とバハ・カリフォルニア半島に挟まれた細長い湾。カリフォルニア湾ともいう)で水泳やカヤックや釣りやサーフィンをして育ったティトは、5年前の自動車事故で両下肢の自由を失って以来、海からも本来の自分の姿からも遠ざかっていた。

 彼のフルネームは、ロベルト・アレハンドロ・ラミレス・リバスという。メキシコのラパス生まれの24歳だ。ラパスはバハ・カリフォルニア・スル州の州都で、静かなビーチと断崖、イルカや魚、アシカ、シロナガスクジラの群れが見られる。(参考記事:「【動画】ホホジロザメがダイバーの入った檻に突入」

 息をのむほど美しい風景と「自然の実験室」としての価値が認められ、この一帯はユネスコの世界遺産に登録されている。近年、ラパスでもエコツーリズムがさかんになってきたが、観光客の多くは車で2時間ほどのカボ・サン・ルーカスに行くので、ここではあまり見かけない。

 ティトにとって人口約20万のこの都市は、人気の観光地の単なるおまけではない。故郷であり、子供時代の冒険の舞台であり、そして悲劇の舞台ともなった。

 2011年11月の夜、ティトはパーティーに出かけ、明け方、ほかの仲間と一緒に友人の車で家まで送ってもらうことになった。ところが、彼が後部座席で眠っている間に、この車が別の車と衝突し、回転して、信号機に激突した。ティトは、この衝撃で脊椎を数カ所骨折してまひに至った。

 最初は、首から下が全然動かない四肢まひの状態だったという。しかし、彼はすぐに治療とリハビリを開始し、毎日の努力が実って、腕はある程度動かせるようになった。スポーツとアウトドアを愛するティトは、事故当時、大学で保健学を学んでいた。今の彼は、陸の上では日常生活のすべてにわたって誰かに頼らなければならない。

 けれども水の中では、2本の腕が動けば十分だ。

 2016年1月、アルゼンチンの「ブセオ・シン・バレラス(ダイビングに障壁はない、という意味)」という団体が、メキシコ支部を通じてティトに連絡してきて、体の不自由な人向けの無料の補助ダイビングコースに誘ってくれた。彼は、10回以上の屋内セッションと、海での数回のダイビングを経てプロの資格を取得した。そして、海がいつも与えてくれた心の平穏と海への愛を取り戻した。(参考記事:「脳とつながるハイテク義手」

 ダイビング歴1年になったティトが、回復への道と、海が私たちに与えてくれるものについて語ってくれた。

――体はどのように回復してきたのですか?

 事故後は3カ月半入院していましたが、退院後はずっと理学療法を続けています。ゆっくりではありますが、着実に良くなってきていると思います。毎日、少しでも良くなりたいと思いながら、ダイビングと治療を続けています。

 スキューバダイビングは治療ではありませんが、回復に影響を及ぼしていることは明らかです。身体的な面では、ずっと車椅子に座っているのは結構辛いので、水の中で姿勢を変えられるのは本当に助かります。精神面では、水の中では気分が高揚し、なんと言うか、本当の自分に近づくことができます。ダイビングをするたびに生まれ変わったような気持ちになり、前向きになれます。

――ラパスの海は、あなたとどんな関係にあるのですか?

 ラパスの海はとても美しいですよ! 私はずっと、ここの海とビーチを愛してきました。ここのビーチは本当にすばらしいのです。海での遊びやスポーツは、一通りやりました。泳ぎ方を知らない子供の頃から、海の近くにいるのが好きだったのです。

 成長とともに、海への愛も深まりました。釣り、カヤック、水泳のほか、サーフィンもやりました。ここのビーチの波はとても小さいのですが、少しはサーフィンができるのです。高校では水泳に打ち込んでいました。2006年には、水泳の全国大会で州の代表にもなったんですよ。

――スキューバダイビングはどうですか?

 すばらしいの一言です。本当に魅力的です。海の中は別世界です。天国ですね。

 僕たちは、4、5人の友人グループで1時間ほどダイビングをします。小さいものから大きいものまで、たくさんの魚に出会えます。沈没した小さな船もあるので、そこでたくさんの海洋生物を見ることができます。友人と一緒に、こうしたものを見ている1時間は、本当に楽しいです。

――すばらしい経験ですね。

 あなたもやってみるといいですよ! 僕たちはいつでもここにいますから。(参考記事:「両脚切断からの復帰、帰還兵が語る」

文=Rachel Brown/訳=三枝小夜子

  • このエントリーをはてなブックマークに追加