まるで地球、衛星タイタンの驚くべき写真

探査機着陸の偉業から12年、海も山も川もある土星の衛星の素顔

2017.01.17
土星探査機カッシーニからの合成画像は、衛星タイタンのもやの下に隠された地形を見せてくれる。(PHOTOGRAPH BY NASA)
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 今から12年前の2005年1月半ば、地球ではない星に着陸すべく、小さな探査機がパラシュートを開いて分厚い大気の中をゆっくりと降下した。探査機はやがて凍った地面に到達。小さな穴をあけ、跳ね返り、横に滑り、ぶるぶるとぐらついた。

 ほどなく探査機が静止した場所は土星の最大の衛星タイタンの「湿った」氾濫原だった。

 欧州宇宙機関(ESA)の小型探査機ホイヘンスは、もやに包まれたオレンジ色の衛星に着陸して詳細な画像を撮影した最初の無人探査機となった。この探査機は、電池が切れ、母船であるNASAの土星探査機カッシーニとの通信が途絶えるまでのわずか1時間ほどの間に、猛烈な勢いでデータを収集し、送信した。(参考記事:「タイタンにたたずむ探査機ホイヘンス」

 このデータは、地球に酷似した異世界を垣間見せてくれた。

まるで地球、衛星タイタンの驚くべき写真7点
フォトギャラリーはこちら(次ページ)(PHOTOGRAPH BY ESA, NASA, JPL, UNIVERSITY OF ARIZONA)

 太陽から14億km以上離れているタイタンの気温は非常に低い。氷は石のように硬く、エタンやメタンのような炭化水素は、地球では普通は気体だが、ここでは液体になって巨大な湖や海を形成している。(参考記事:「タイタンの赤道付近にメタンの湖」

 しかし、直径が5150kmもあり、山があり、雨が降り、風が吹き、海には波も立っているタイタンは、静寂に包まれたクレーターだらけの衛星よりは惑星に似ている。地表に炭化水素の海があるだけでなく、地下にも液体の水の海があり、地球外生命を探すのに最適な場所の1つになっている。

 米ジョンズ・ホプキンス大学の惑星科学者サラ・ホルスト氏は、「タイタンは二重の海がある世界のようなものなので、私たちがよく知るタイプの生命と、未知のタイプの生命が存在している可能性があります」と言う。(参考記事:「衛星タイタンの大気、生命には若すぎ?」

酸素ができる前の地球?

 ホイヘンスは土星探査機カッシーニに運ばれて土星系にやってきて、土星軌道に入ってからタイタンに向かって放出された。

 カッシーニには土星とその多くの衛星を探査する任務が与えられていたが、ホイヘンスの任務はタイタンの観測だけだった。ちなみにホイヘンスという名前は、1655年にタイタンを発見したオランダの天文学者クリスティアーン・ホイヘンスにちなむ。タイタンは分厚い大気に覆われているため、星自体の表面はほとんど見えない。(参考記事:「火星地図200年の歴史、こんなに進化した15点」

 カッシーニから分離されたホイヘンスは20日後にタイタンに到着し、その大気中を2時間以上かけて降下し、氷点下170℃の極寒の平原に着陸してデータを収集した。

 米アリゾナ大学のラルフ・ローレンツ氏は、「タイタンに関するそれまでの知識は間接的に調べられたことばかりでしたが、ホイヘンスはタイタンの環境を直接明らかにし、クローズアップで見せてくれたのです」と言う。

 ホイヘンスは私たちに、タイタンに山々や急流の浸食によってできた峡谷、河床、窒素を主成分とする大気に風があることを教えてくれた。地表での測定の結果は、ホイヘンスが着陸した砂地が乾燥した砂漠ではなく、なんらかの液体によって湿っていることを示していた。

 ホイヘンスは大気の測定も行い、科学者たちは、タイタンの昔の大気の組成を再現し(おそらくアンモニアとメタンからできていた)、生命が進化して酸素が豊富になる前の地球と同じ、窒素を主成分とする大気の中で有機分子がどのように振る舞うかを調べられるようになった。

「窒素を主成分とする大気を持つことが分かっている天体は、地球のほかにはタイタンだけです」とホルスト氏。「タイタンの大気中では、酸素ができる前の初期の地球で見られた化学反応の多くが起こっていると考えられます」

タイタンから地球を知る

 ホイヘンスによるタイタンの探査は、人類が月以外の衛星に探査機を着陸させた最初の(そして今のところ最後の)ミッションだった。(参考記事:「「彗星ヒッチハイカー」と「氷衛星の中心への旅」」

 NASAは以前、将来の惑星探査ミッション候補の筆頭に「タイタン表層海探査(Titan Mare Explorer)」を挙げていた。このミッションは、タイタンの北部にある多くの海の1つであるリゲイア海に浮かぶ探査機を送り込むというものだった。液体の炭化水素からなるタイタンの表層海には、地球の生命とはまったく異なる化学物質からなる生命が生息している可能性がある。(参考記事:「タイタンの海に新探査計画」

「この探査により生命の多様性を検証できるはずでした。地球上の生命とは異なる液体を利用する生命を見つけることもできたかもしれません」とホルスト氏。(参考記事:「生命は地球の外にも存在するのか?」

 人類はまもなく土星系に送り込んでいた探査機を失う。カッシーニは今年中にミッションを終え、土星に突入することになっている。しかし、ホイヘンスやカッシーニなどの歴代の探査機が収集したデータは、その本体が失われた後も太陽系に関する新しい手がかりをもたらし、科学者が将来のミッションを計画するのに役立つだろう。(参考記事:「土星探査機カッシーニ、最終ミッションを開始」

 タイタンは、地球とはまったく異質であると同時に、どこか親しみも感じられる天体だった。季節ごとに降る雨は平野を黒く染め、有機分子が豊富で、冬には極地の周囲をまわる「極渦」のような風が吹いていた(仕上げはシアン化水素の雲だ)。

 ローレンツ氏は、「タイタンの魅力は、おなじみのものとエキゾチックなものが混在している点にあります」と言う。「超低温や氷や有機物や液体メタンが、地球でも見られるような雨や川や砂丘や海を作っているのです」

 簡単に言えば、タイタンは地球以外の土地を探検するという興奮を与えてくれるだけでなく、私たちの故郷である地球についても知識を与えてくれる点で、科学者にとって非常に魅力的な天体なのだ。(参考記事:「最新研究で見えてきた「生命の星」地球のレシピ」

 ホルスト氏は言う。「タイタンは活動的な天体で、地球上で見られる過程によく似たものが多く見られるので、惑星の成り立ちに関する基本的な理解を検証するのにうってつけなのです」

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