【解説】謎の高速電波バーストの発生源を特定

30億光年の彼方にある矮小銀河から届く

2017.01.07
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30億光年の彼方にある矮小銀河から届く微弱な電波バーストは、科学者が初期宇宙を覗き込むための新たな「窓」になり、人類の宇宙観に突きつけられた謎を解くための重要な手掛かりになるかもしれない。(ILLUSTRATION BY BILL SAXTON, NRAO,AUI,NSF; HUBBLE LEGACY ARCHIVE, ESA, NASA)
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 宇宙では毎日、何千という不思議な天体が高速電波バーストを発している。電波バーストの持続時間はわずか数ミリ秒だが、その間に太陽5億個分ものエネルギーが発生する。

 この「高速電波バースト(FRB)」の存在を天文学者たちが知ったのは、つい10年前のことである。彼らはそれ以来、電波バーストの発生源の位置を正確に特定して、何が(もしかすると誰が)電波バーストを作り出しているのかを明らかにしようと取り組んできた。(参考記事:「銀河系外から謎の電波パルス」

 2017年1月4日、ついに高速電波バーストの発生源を特定したとの発表があった。天文学者のチームが、世界各地の強力な望遠鏡のネットワークを利用して、約30億光年の彼方にある矮小銀河が発する高速電波バーストを捉えることに成功したのだ。

『ネイチャー』と『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に発表された今回の発見には深い意味がある。これらの電波バーストは、科学者が初期宇宙を覗き込むための新たな「窓」になると同時に、人類の宇宙観に突きつけられた謎を解くための重要な手掛かりになるかもしれないのだ。

 研究チームの一人で天文学者のシャーミ・チャタジー氏は、「昔は『天のように変わらない』という言い回しがありました」と言う。「けれども宇宙はどんどん変化しています。空は、私たちがまだ理解できていない、途方もなく強力な現象で沸き立っているのです」

毎日5000~1万回も発生

 高速電波バーストは2007年に発見された。オーストラリアのニューサウスウェールズ州にあるパークス天文台で過去のデータを調べていた天体物理学者が、2001年8月24日に異常に強力なエネルギーの噴出が検出されていたことに気付いたのだ。その持続時間はわずか5ミリ秒だった。

 天文学者たちは、当初は懐疑的だった。「局所的な干渉ではないのか、近くの牧場でヒツジが電気柵にぶつかって発生した電波ではないのかと言われました」とチャタジー氏。

 同じパークス天文台で長年観測されていた別の異常な信号が、電子レンジによるものだと判明したときには、疑いはさらに大きくなった。

 けれどもその後の観測により、高速電波バーストは実際に宇宙で発生したものであると証明され、今では宇宙全体で毎日5000~1万回も発生していると推定されている。

 これだけ多く発生しているにもかかわらず、その発生機構は不明である。(参考記事:「謎の爆発的宇宙電波の出所を絞る、サイエンス誌」

「実際に観測された高速電波バーストの数より、発生機構に関する理論の数の方が多いくらいです」とチャタジー氏。

 ある人は、高密度の中性子星(超新星爆発を起こした巨大な星の残骸)がお互いに衝突したり、彗星に衝突したりすることにより生じると考えている。マグネター(強力な磁場を持ち、高速で回転している中性子星)のフレアであると主張する人もいる。星が崩壊してブラックホールになるときの断末魔の叫びかもしれないという人もいる。

 宇宙人のラジオ放送かもしれないと推測する天文学者もいる。その興味深い「証拠」として、ある観測チームは高速電波バーストに数学的なパターンが見られると主張した。だがデータが蓄積されるにつれ、そのパターンは見えにくくなってしまった。

 科学者たちは、高速電波バーストの発生源を正確に特定できれば、その機構に関する貴重な手がかりが得られるだろうと期待している。例えば、死んだ星や死にかけの星ばかりからなる古い銀河が発生源だったら、電波バーストは中性子星どうしの衝突によって発生した可能性が高くなる。

FRB 121102の観測は、米国ニューメキシコ州の超大型電波望遠鏡群とヨーロッパの強力な電波望遠鏡ネットワークを利用して、世界規模で行われた。(ILLUSTRATION BY DANIELLE FUTSELAAR)
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 しかし高速電波バーストは、その名のとおり高速であるため、発生源を特定するのは非常に困難だ。電波バーストはあらゆるところで発生しているが、それを検出するためには、正確なタイミングで適切な場所に電波望遠鏡を向ける必要がある。さらに、1基の電波望遠鏡で撮影された画像だけでは詳細はわからないため、複数のアンテナと、データを処理するための膨大な計算能力が必要だ。

「皆さんは、天文台ではいちどに全天を観測していると考えているかもしれませんが、私たちは、空のごく小さな領域を集中的に観察しているのです」とチャタジー氏。

 幸い、チャタジー氏のチームは2年前にすべてを変えるような大発見をした。高速電波バーストを繰り返し発生する「FRB 121102」という新しい天体を発見したのだ。

運が良かった

 高速電波バーストを繰り返し発生させる天体が発見されたことには、重要な意味がある。バーストが破壊的な現象によって引き起こされたものではないことだ。(参考記事:「【解説】“高速電波バースト”、謎解明に一歩前進」

 チャタジー氏は、「繰り返しが可能な機構でなければならないことが明らかになりました。つまり、中性子星どうしが衝突して崩壊するような現象ではないのです」

 FRB 121102の高速電波バーストには次の発生時期を予測できるようなパターンはなかったものの、空の同じ領域でいつかは電波バーストが起こることは確実にわかっていたため、天文学者たちは解像度がもっと高い望遠鏡を使って活動を観測することができた。

 チャタジー氏のチームは、米国ニューメキシコ州の超大型干渉電波望遠鏡群の27基ある25mパラボラアンテナのすべてを使って観測した。彼らは6カ月間に約83時間の観測を行い、FRB 121102からの電波バーストを9回捉えて、発生源の位置を特定した。

 次のステップは、ハワイのジェミニ天文台にある強力な光学望遠鏡を使ってFRB 121102に該当する天体を探すことだった。天文学者たちは、電波バーストの発生源は地球から30億光年離れていると計算していたが、ちょうどその場所に矮小銀河を発見することができた。研究チームはさらに、より高解像度の画像を得るために、ヨーロッパの強力な電波望遠鏡ネットワークを使ってFRB 121102をもう一度観測した。

 彼らは非常に運が良かった。この観察の間、FRB 121102はなぜか「ハイパードライブ状態」に入ったのだ。

「高速電波バーストの繰り返しは、頻繁には起こりません。けれども、私たちが観測をはじめた途端、FRB 121102は平均して1時間に1回のペースでバーストを起こすようになったのです」とチャタジー氏。

 この観測によって得られた画像から、高速電波バーストは矮小銀河の中心付近の超大質量ブラックホールがありそうな場所から出ていることが明らかになった。

強力な光学望遠鏡により、遠方の銀河が微弱な電波バーストの発生源であることが確認された。銀河系内で高速電波バーストの信号が見つからない理由はまだわからない。(PHOTOGRAPH BY GEMINI OBSERVATORY/AURA/NRC)
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さらに深まる謎

 FRB 121102が巨大なブラックホールのすぐ近くにあるという発見は、高速電波バーストの発生機構に関する新しい手掛かりとなる。

 一つの可能性は、ブラックホール自体が高速電波バーストの発生源であることだ。ブラックホールの強力な重力は、光速に近い速度で物質が吹き出す強力なジェットを作り出す。ときどきプラズマと呼ばれる電離ガスの塊が、このジェットの中にしたたり落ちて蒸発し、エネルギーの閃光が生じているのかもしれない。

 高速電波バーストは超新星爆発のガス状の残骸で、その中心部には高エネルギーのマグネターがあるとする仮説もある。ガス状の残骸の内部にはプラズマの塊がいくつもあり、これらがときどき整列して電磁レンズを形成し、マグネターが放射する電波をいちだんと強めているという。

 第三の仮説では、中性子星やマグネターのような天体が銀河の超大質量ブラックホールの周りを回り、何らかの相互作用によりエネルギーを放出しているという。

「正直なところ、どれが正しいのかわかりません。けれども、現時点で考えられるモデルはこの3種類です」とチャタジー氏。

 天文学者たちが研究を続け、ほかの高速電波バーストに関するデータも収集して、その位置に共通の特徴があるかどうかがわかれば、答えはもっとはっきりしてくるかもしれない。発生源はすべて矮小銀河の中にあるのだろうか? 常にブラックホールのすぐ外側にあるのだろうか?

 チャタジー氏は、高速電波バーストの発生機構が複数存在する可能性を否定しない。実際、FRB 121102は繰り返しバーストを発生するため、1回だけバーストを発生してその後は永遠に沈黙する標準的な高速電波バーストとはまったく異なる種類の現象なのかもしれない。

 高速電波バーストのすべてが遠方の銀河から来ていた場合、天文学者はもう一つの謎に直面することになる。私たちの銀河系で同じような電波バーストが検出されないのはなぜだろう?

 前述のように、FRB 121102は地球から30億光年の彼方にある。これは、私たちが30億年前に起こった現象を観察していることを意味する。

「この現象は、宇宙の進化と関係があるのかもしれません」とチャタジー氏。「高速電波バーストは、宇宙が今日とは少々違っていた30億年前に発生したものなのです。奇妙なことですが、これは30億年前にはあって、300万年前にはなかった現象なのです。

 もう一つ、電波バーストはすぐ近くでも発生しているが、信号が強すぎて、携帯電話や電子レンジや人工衛星やレーダーの電波ノイズによる干渉として無視されている可能性も考えられる。

「私たちが干渉として捨てているデータの中には、単なる干渉ではなく、もっと近いところからの信号もあるのでしょうか?」とチャタジー氏。「そんなことが本当にあれば、滑稽で悲しすぎますね」

文=Mark Strauss/訳=三枝小夜子

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