ネズミの喜ぶ表情が判明、くすぐって検証

うれしいと耳を寝かせ、ピンク色に、ポジティブな感情では初の発見

2016.12.16
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
最新の研究成果によると、ネズミが喜んでいるかどうか見分ける一番のポイントは耳だ。上機嫌のネズミは耳がリラックスし、外側に向かって寝ているが(写真右)、そうでなければぴんと立っている(左)。(PHOTOGRAPH BY KATHRYN FINLAYSON)
[画像のクリックで拡大表示]

 ネズミは喜びを感じるのだろうか。判断は難しい。ネズミは人間のように歯を見せて笑うわけではないからだ。

 だがこのほど、ネズミ(Rattus norvegicus)が喜んでいるときの表情を、スイス、ベルン大学の動物行動学者ルカ・メロッティ氏の研究チームが見つけ、科学誌「PLOS ONE」に発表した。それによると、鍵を握っていたのは、耳だ。

 研究結果によれば、実験室のネズミたちはくすぐられると大喜びして耳がピンク色になるほか、耳の力を抜いて外側に寝かせるのだという。

 喜びや幸福感といったネズミのプラスの表情を見つけた研究はこれが初めてだ。これまでの研究は主に痛みに注目しており、痛みを感じたネズミは目を細めたりギュッとつむったりする、鼻と頬の膨らみがなくなる、耳が前向きに丸まることが示されている。これを元に、痛みの度合いを測るラットの「しかめ面指標(グリマススケール)」が作られたほどだ。(参考記事:「実験動物、男性の匂いでストレス」

 メロッティ氏は「動物が喜んでいる、または苦痛を感じていることが外見からわかれば、飼育動物のQOL(生活の質)向上に役立つ可能性があります」と話す。メロッティ氏は最終的に、動物の表情を観察することで感情レベルをモニタリングする自動システムを開発したいと考えている。

しかめ面の仲間を避けるネズミたち

 ネズミに「うれしい」表情があるかどうかを見るため、研究チームはネズミをくすぐって上機嫌にさせ、その直後に顔の表情を写真に撮った。

 これまでの研究で、ネズミはくすぐられると喜ぶことがわかっていた。もっとくすぐってもらおうとして人の手を追い回したり、「笑い声」を上げたりした。もっとも、この声は周波数が高すぎて、特殊な機器を使わなければ人の耳には聞こえない。(参考記事:「【動画】くすぐられて笑うネズミの脳の観察に成功」

くすぐられるネズミの笑い声は57秒から。くすぐるのをやめるとネズミは人の手を探し回り、やがては手を遊び相手と認識して、くすぐられなくても笑い声を上げながら手を追いかけるようになった。ただし、人間の耳に聞こえるように声の周波数を下げられている。もとの周波数は50kHz前後。(説明は英語です)(Video courtesy Humboldt University of Berlin)

「ネズミくすぐりの達人」になったというメロッティ氏は、個々のネズミに性格の違いがあることもわかったと話す。内気で不安げなネズミは、荒っぽいくすぐり方をあまり好まなかったという。

 研究チームは、ネズミたちがくすぐられて楽しんだ後の表情と、不快な騒音を聞かせた後の表情を比較。喜んだネズミは、血流の増加により耳がピンク色になった。ただし、血流の増加は、くすぐられているときに単によく動いたからという要素も考えられ、喜んだことがどの程度関係があるのかは明らかになっていない。

 ネズミにとっての「喜び」が正確にどういうものかを知るのは簡単ではない。「動物にも感情がある可能性は高いですが、人間と同じ感じ方かどうかはわかっていません」とメロッティ氏は言う。

機嫌をよくするために少々くすぐられたネズミ(写真右)は、くすぐられておらずやや不快な音を聞かされたネズミ(左)よりも、耳のピンク色が濃くなった。(PHOTOGRAPH BY KATHRYN FINLAYSON)
[画像のクリックで拡大表示]

 科学者にできるのは、感情が動かされる状況で脳のどの領域が活発になり、どんな化学物質が出るかを調べることだ、とメロッティ氏は続ける。哺乳類であれば脳機能や化学物質の作用の多くが共通しているため、脳が同じように活発になる感情は、似たような受けとり方である可能性がある。(参考記事:「ネズミの恩返し行動を発見、人間以外で初」

 米コロラド大学ボルダー校の名誉教授で動物行動学が専門のマーク・ベコフ氏は、「昨今は、動物も深く豊かな感情を経験しているという確かなデータに事欠きません」と話す。(参考記事:「動物は何を考えているのか?」

「苦痛の表情」を避けるネズミ

「動物たちは、主として互いのコミュニケーションのために表情を使っています」と話すのは、英ポーツマス大学のブリジット・ウォラー氏だ。ウォラー氏は今回の研究には関わっていないが、イヌからチンパンジーまでさまざまな動物の顔の表情を研究している。

「判明しつつあるのは、動物全体の間には一般に思われている以上に共通点が多いということです」とウォラー氏。

 例えば、アザラシ、カバ、そして笑っているヒトも含め、多くの哺乳類は、仲間と遊んでいるときに口を開けたよく似た表情を見せる。「哺乳類の体において、顔がコミュニケーションの重要な要素になっていることがわかります」(参考記事:「動物って笑うの?」

 ネズミたちがコミュニケーションに顔の表情をどう使っているかははっきりしない、とメロッティ氏は話す。げっ歯類の中でもネズミは夜行性であり、しばしば暗闇の中でコミュニケーションを取り合う必要があるため、視覚的な信号よりも嗅覚や触覚に頼る傾向がある。

 だが、ネズミが読み取れる表情が少なくとも1つはあるという証拠が出されている。痛みだ。2015年の研究で、ネズミは他のネズミが苦痛で顔をゆがめている写真を避け、特定の感情が表れていないネズミの写真のそばをうろつきたがることがわかった。

 研究や実験に使う動物を減らすよう主張しているベコフ氏は、「こうした知見を、動物たちの利益になるよう使うべき時です」と訴えている。(参考記事:「悲哀の感情、“死を悼む”ゴリラ」

文=Erika Engelhaupt/訳=高野夏美

  • このエントリーをはてなブックマークに追加