瀬戸内海の「うさぎ島」、何が問題?

ウサギとふれあえる観光地になったが、保護団体から心配の声

2017.12.15
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【動画】大久野島が「うさぎ島」と呼ばれるのはなぜ?(解説は英語です)

 瀬戸内海に浮かぶ広島県竹原市の大久野島。周囲4キロあまりの小島は、1時間半もあれば歩いて1周できる。草地が広がり、海水浴場、展望台、桟橋が点在する。現在は観光地となっているこの島に住む人は多くなく、島を駆け回る野生のアナウサギ数百匹を守れる人は少ない。

 大久野島が「うさぎ島」と呼ばれ、人気が上昇したのは2014年以降だ。ウサギの群れが女性に殺到している動画が話題を呼んだ。それからというもの、ウサギの大群がソーシャルメディアや映像で紹介され、島に観光客が集まっている。だが、人の干渉が増えたことで、大久野島はウサギにとって持続可能ではなくなってしまった。

なぜウサギかには諸説

 そもそも、この島になぜウサギがいるのか。本当の理由は誰も知らない。

 大久野島は「毒ガス島」と呼ばれることもある。戦時中、この地で秘密裏に毒ガス実験が行われていたからだ。作戦を隠すため、島は日本地図から消された。化学兵器の実験動物としてウサギが島に持ち込まれていたため、今いるウサギがその子孫だと推測する人もいる。だが専門家によると、実験用のウサギは作戦中止後に安楽死させられたという。(参考記事:「米国で見つかった日本の軍事機密「地図」14点」

 英国人カップルがウサギを島に持ち込んだという噂もあれば、近くの小学校が1971年にウサギを放したという説もある。生息数の推定はばらつきがあるが、2007年には約300匹が島にすんでおり、現在では700~1000匹に増えているとされる。(参考記事:「事故から30年、チェルノブイリが動物の楽園に」

「こんなに小さな島に、多すぎるほどのウサギがいるのが現状です」と話すのは、マーゴ・デメロ氏。米カリフォルニア州に本部を置くウサギ保護団体「ハウス・ラビット・ソサエティー」の代表を務めている。「間違いなく、最近の現象です」

 2015年3月、デメロ氏ら研究者は大久野島に10日間滞在し、ウサギの集団を調査したり、人々に話を聞いたりした。前述の「ウサギの大群」動画が拡散したことで、観光客の構成が変わったとデメロ氏は言う。以前は島にある温泉へやって来る年配の日本人と校外学習で毒ガス資料館を訪れる地元の学生が多かったが、今はずっと多様になった。2005年に13万6000人だった観光客は、2015年には25万4000人にまで膨らんでいる。そのうち1万7000人が外国人だ。

 今のところ、島にあるのは宿泊施設である休暇村大久野島、ゴルフコース、毒ガス資料館などだ。ホテルは観光客に対し、ウサギに手を触れないよう呼びかける一方で、観光客を呼び込む宣伝材料にウサギを使っているとデメロ氏は指摘する。

エサは危険なプレゼント

 人の流入に伴い、ウサギにとっての問題も流入している。

「ウサギたちは本当に人懐こく、攻め立ててくると言ってもいいくらいです。人から餌をもらう必要がありますから」とデメロ氏。「人が島にいる間、ウサギは最も活発になります」(参考記事:「【動画】交尾めぐりユキウサギが高速連打の応酬」

 大久野島で暮らすアナウサギはもともと草食で、葉や根、木の皮、種子を食べ、時には糞も食べることがある。農家がウサギに作物を食べられて怒っているイメージから、ニンジン、レタス、キャベツを食べると思っている人もいるかもしれない。そのため、島を訪れる観光客も、これらの野菜をウサギに与えようとして持ち込んでくる。

 だが、この食事はウサギには有害だ。最も多い餌であるキャベツは、ウサギの敏感な消化系では分解しにくいため、与えすぎると害になる。

 島にはあちこちに看板があり、ウサギに餌をやったり、抱き上げたり、追いかけたりしないよう呼びかけている。人の安全確保が主な理由で、日本語、英語、中国語、韓国語で注意書きされている。一方で観光客は、特に食べ物がかなり乏しくなる冬場に、ウサギに餌をやるよう推奨されてきた。以前、ホテルではカップや袋に入ったウサギの餌を売っていたが、すでに中止している。

 餌の増減が激しいこともウサギのためにならない。ペンギンなど強靭な動物と違い、ウサギは毎日餌を食べる必要がある。現状では、ウサギたちは大量の餌にありつける日があっても、数日後には餌がないという可能性もある。人の入りは天気や学校の予定次第で変わるからだ。

 島のウサギは寿命2年ほど。模範的な状態で飼われていれば、長いもので10年生きることもある。野生のウサギは寿命2年くらいが普通だが、それは天敵がいる場合だ。この島に天敵はいない。いるのはウサギだけだ。

 デメロ氏は、島のウサギの多くが人との接触によってけがをしたり、病気にかかったりしているのに気付いた。島では、車にはねられて死ぬウサギも多い。全体では数は増えているかもしれないが、1匹ごとに見ていくと、何らかの問題がある。

「集団としては順調だと思いますが、個体レベルでは、問題なしとは言えないと思います」とデメロ氏は話す。

島に暮らすウサギ、今後はどうなる?

 観光客数が増え続ける一方で、「うさぎ島」に暮らし続ける小さな住人たちをどうするかという計画はあいまいだ。

 環境省広島事務所の関貴史氏は、観光客の増加に伴いウサギも人に慣れてきていると話す。島にあるホテルでは、ウサギのケガなどの問題を避けるためルールを作成しているという。「野生動物との共存を目指して関係機関とともに取り組みを続けています。人為的な介入が増え過ぎるのは、望ましいことではありません」

文=Elaina Zachos/訳=高野夏美

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