アラスカの孤島で海鳥エトピリカが謎の大量死

ベーリング海の海水温上昇によるエサ不足が原因か

2016.11.11
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ベーリング海の真ん中に浮かぶプリビロフ諸島で、10月半ばごろから餓死したり衰弱しきったエトピリカが大量に見つかっている。(PHOTOGRAPH BY PAUL MELOVIDOV)
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 10月半ば、米アラスカ州セントポール島の海岸に海鳥、エトピリカの死骸が打ち上げられた。最初は数羽だったのが、数十羽に、さらに数百羽に増えていった。ボランティアたちは初めのうちは車で死骸を探していたが、あまりに数が多いので車を降りて徒歩で回収し始めた。

 エトピリカは、黒い体に白いマスクを着けたような顔、橙色のくちばしをもつ海鳥だ。太平洋の北、ベーリング海の真ん中に浮かぶセントポール島で、この鳥が次々に死んでいるのはなぜなのか。いつもならエサの豊富なベーリング海に、異変が起きているのだろうか。(参考記事:「“癒しの鳥”パフィンの越冬地がついに判明」

生命豊かな海に訪れた異変

 ベーリング海は北米で最も多く海の幸が獲れる、漁業の盛んな海域だ。2016年初め、この海域の水温が記録的な高さに達したことから、専門家らは海の食物網に変化が生じているのではないかと考えている。もしそれが本当なら、海鳥、オットセイ、サケ、カニ、スケトウダラといった海の生物が深刻なエサ不足に直面する恐れがある。スケトウダラは、ファストフード店のフィッシュサンドや冷凍のフィッシュスティックに使われるアメリカで人気の白身魚で、その市場は年間10億ドルに上る。

 今年に限らず、数年前からアラスカ湾には通常よりも水温の高い「暖水塊」が居座り、これに南カリフォルニアからの暖かい海水が合流して、沿岸海洋に劇的な変化をもたらした。オレゴン州沖では、食物網の底辺をなす脂肪分の高いカイアシ類の姿が数カ月間見られず、その結果、それをエサとするアシカ、ウミガラス、アメリカウミスズメが大量に餓死している。アラスカ州でもクジラやラッコの死骸が打ち上げられ、西海岸ではかつてないほどの長期にわたって猛毒の藻類の大量発生が続いた。(参考記事:「太平洋 不吉な熱い波」

【動画】海の捕食者エトピリカ(解説は英語です)

 一方、北極に近いベーリング海ではこれまで大きな変化には至らなかった。2014年初めの海水温は平年よりも上がったが、異常なレベルとまではいかなかったし、昨年もアラスカ湾からの暖かい海水が海氷の拡大を阻まなければ、平年並みの海氷量を記録していただろう。

 しかし、今年は様子が一変した。ベーリング海の底にある冷たい海水ですら、時に通常と比べて6℃も上昇することがあったのだ。

「ベーリング海の夏場の最高水温は過去に例を見ないほど高く、冬の最低水温もここ数年と比較して高くなっていました」と、米海洋大気局(NOAA)太平洋海洋環境研究所のフィリス・スタビノ氏は言う。

 太平洋では通常、海水温が上がると食べ物が少なくなる。実際、小さな魚やその他の海洋生物のエサとなる小さなカイアシ類の減少が報告されているが、事態はいつもより深刻さを増している。

 スタビノ氏によれば、海水が暖かいと脂肪分の高い動物プランクトンの量が減るが、それでもより小さくて栄養価の低い動物プランクトンは残っているものだ。しかし今年はそれすら姿を消し、ほとんど何も見つからないのだという。

 NOAAアラスカ漁業科学センターのジャネット・ダフィ・アンダーソン氏も同意する。「魚や鳥、哺乳類にとって、これは懸念すべき問題です。動物プランクトンは若いスケトウダラのエサとなり、そのスケトウダラが今度は鳥、タラ、オヒョウ、それに大きなスケトウダラのエサとなるからです」

科学者らは、ベーリング海の水温が異常に上がって食物網を変化させ、食料源となる魚がいなくなったためにエトピリカが餓死したのではないかとみている。(PHOTOGRAPH BY PAUL MELOVIDOV)
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ひどい飢餓状態だった

 10月初め、セントポール島の先住民アレウト族の生態系保全局で共同責任者を務めるローレン・ディバイン氏は、2羽のエトピリカの死骸を託された。アンカレッジにある研究所へ調査のために持ち帰りはしたが、その時はさほど気にも留めていなかった。面積104平方キロ、人口約500人の小さな島で、鳥の死骸が浜に打ち上げられるのはたまにあることだ。

 しかし、数日のうちに何かがおかしいことに気付いた。

「10月17日に、2つの大きな砂浜で調査を開始しました。すると、初日だけで約40羽の死骸が見つかりました」と、ボランティアのアーロン・レステンコフ氏は語る。「その後も、調査に行くたびに20~30羽を発見しました」

 現在までに数百羽の死骸が打ち上げられているが、これは普段の200倍近い数字だ。セントポール島と、そのすぐそばにある岩がちなセントジョージ島以外、この周囲に島はないため、専門家はこれまでに発見された死骸が実際の数のほんの一部にすぎないと考えている。(参考記事:「アラスカに漂着した謎のクジラ、新種と判明」

 西海岸の鳥類監視ネットワークでボランティアのコーディネートを行ったワシントン大学のジュリア・パリッシュ教授は言う。「過去10年間の記録を見ると、死骸となって浜に打ち上げられたエトピリカはたったの6羽です。それが今では、20日間で250羽近くが発見されています。この2つの島は、他に何もない大海の真ん中に浮かんでいます。エトピリカの個体数は全体でわずか6000羽。その半分が影響を受けているのではないかと思われます」

 エトピリカは、海へ深く潜ってスケトウダラの子どもなど小さな魚を捕食する。パリッシュ氏によると、エトピリカが病気にかかっているわけではないという。死骸からは病気を示す証拠は見つかっていないが、ひどい飢餓状態にあったという。

 エトピリカによく似たニシツノメドリ(パフィン)にも異常事態が起こっている。いつにない暖冬だった2012年の1年後、北米大陸の反対、大西洋側のメーン湾ではニシツノメドリの繁殖数が過去最低を記録した。アイスランドでも、繁殖数は10年間減少し続けている。しかし、太平洋側では成鳥が次々に死んでいるのだ。(参考記事:「動物大図鑑 ニシツノメドリ」

「明らかに、何かとてもおかしなことが起こっています」と、パリッシュ氏。「最近では、毎年のように何らかの大量死が報告されています。大気に起因して積み上げられた変化が、海の生態系に甚大な変化を与えているようです。そして、全ての生命がエサとして依存している小さな魚が打撃を受けているのです」(参考記事:「癒やしの鳥 パフィン」

 他の海洋生物にとって、それは何を意味するのだろうか。

「まだ分かりません」とパリッシュ氏。「ベーリング海はとても広く、この変化に気づいたのはつい最近のことです」

脅威にさらされるアイスランドのニシツノメドリ(2008年12月5日)
アイスランドのベストマンナ諸島では、マスコット的存在として親しまれているニシツノメドリが温暖化する気候によって危機にさらされている。

海水温上昇の原因は

 NOAA南西水産科学センターの生態学者ネイト・マンチュア氏の説明によると、大気の中で起こった奇妙な動きが、2013年にアラスカ湾で暖水塊の形成を助けたという。それが今年春の終わり頃になって再び変化し、北太平洋全体に高気圧が居座った。そのため、アラスカ全体では5月から9月にかけて長期間暖かい時期が続いた。

 そして、10月にこれが再び変化し、アラスカ湾に激しい嵐をもたらした。しかしベーリング海には、南から暖かい空気と海水が風に乗って運ばれてきた。

「この巨大な大気のパターンは北太平洋のほぼ全体に広がり、暖かい場所と冷たい場所を同時に作り出しています。これが長いこと続いて、海水温の異常な上昇を引き起こしています。極端から極端へ移行しているようです。同じパターンが10~12日も続くと、海水は少しずつ熱を蓄積していきます」

 この変化が、気候変動とどの程度結びついているのかはまだ明らかになっていない。一部の見方では、海氷の融解がジェット気流に影響を与え、不安定にさせているという。また、熱帯からの暖気と関係しており、激しい変化ではあるが通常の変化の範囲内だろうとする意見もある。

 ダフィ・アンダーソン氏は、「また島へ行ってさらなる調査を続けたいと思います。とても憂慮すべき事態だと思いますので」と語った。

文=Craig Welch/訳=ルーバー荒井ハンナ

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