「暗殺虫」の襲撃テクニックを解明

気づかれずにクモを襲う巧妙な手口

2016.10.28
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生態がほとんど分かっていないジラフ・アサシンバグ。巧みな方法でクモを食べていることが判明した。(PHOTOGRAPH COURTESY FERNANDO SOLEY)
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 鋏角、毒液、さらに鋭敏な感覚で武装したクモは、はい回る虫の世界では強力な捕食者だ。だが、その能力の上を行く昆虫がいる。英名でアサシンバグ、つまり「暗殺虫」と呼ばれるサシガメだ。今回、このサシガメがクモに気づかれずに襲う驚きのテクニックが、新たな実験で判明した。(参考記事:「赤い「牙」を持つ謎の猛毒グモを発見、豪州」

 科学誌「ロイヤル・ソサエティ・オープン・サイエンス」に10月26日に掲載された研究によると、サシガメ科のジラフ・アサシンバグ(学名Stenolemus giraffa)は、クモに近づこうとして巣を切り裂く際、巣が揺れることで生じる振動を抑えているという。さらに、風が吹いて、接近していることが分かりにくいときにクモを襲うなど、周囲の条件を味方につけていることも分かった。

 オーストラリアのマッコーリー大学でこの研究を行い、現在コスタリカ大学に籍を置くフェルナンド・ソリー氏は、「クモにとっては、彼らは化け物に違いありません」と話す。「襲撃されても探知できず、とても恐ろしい生き物ですから」

サシガメ対コウモリ
別の種類のサシガメが、チスイコウモリから吸血する。(解説は英語です)

クモは難しい獲物

 どんな生物でも、クモを捕食するのは至難の業だ。四方八方に広がったクモの巣は、恐ろしく感度の高い情報収集システムであり、どこに羽虫がかかったか、あるいはどの区画に補修が必要かどうかなどの信号を伝えている。今回の研究には関わっていない生物学者ベス・モーティマー氏によると、クモは1インチ(2.54センチ)のおよそ100万分の1という細かさで糸の動きを感じ取れるという。(参考記事:「弦楽器であり感覚器官であるクモの糸」

 それでもなお、ジラフ・アサシンバグは首尾よくクモを平らげてしまう。体長の3分の1から2分の1を占める長い首から「ジラフ」(キリン)と名付けられたこの虫を何年も研究するソリー氏は、クモがアサシンバグの接近を感知しないことが多いのに気付いた。狩りのためにアサシンバグが巣を破っていても、クモは気が付かないのだ。

 この手口を解明しようと、ソリー氏はオーストラリア国内の岩の裂け目に体をねじ込み、ジラフ・アサシンバグを採集。うまくいった日には10匹というペースで、苦労して目当ての虫をそろえた。研究室に戻ると、クモに引き糸を吐かせ、その糸を木製の枠に張って人工の巣を作った。ユウレイグモ科のクモをおとりとして模造の巣に置き、ジラフ・アサシンバグに襲わせた。

 レーザーで巣の振動を測定したところ、ジラフ・アサシンバグはほぼ毎回、クモに近づく方法を工夫していることが判明。ソリー氏が「用心深い」方法と呼ぶのは、次のようなやり方だった。まず巣の1カ所で糸をつかみ、軟らかいキャンディを伸ばすように左右に引っ張る。糸が切れると、ぶら下がった糸の端を持ち続ける。こうすると急な反動が起こるのを防げて、巣に振動が起こりにくくなるのだ。

ジラフ・アサシンバグ(上)が、獲物をつけ狙う。標的は巣の中のクモだ。(PHOTOGRAPH COURTESY FERNANDO SOLEY)
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 米ルイジアナ州立大学とスミソニアン熱帯研究所でクモを専門に研究するウィリアム・エバーハード氏は、「クモを捕える方法としてとても賢く、器用な方法です」と驚く。同氏は今回の研究には関わっていない。「この方法でうまくいくのかと私なら思ったでしょうが、間違いなく成功しています」

風を味方につける

 さらに、ソリー氏が何度か巣に扇風機で風を送ったところ、アサシンバグは空気が動いているときにクモの巣の糸を切る傾向にあることが分かった。風が吹くと巣が揺れ、クモの振動センサーも乱れるため、侵入者を感知しにくくなるようだ。また、アサシンバグは一定の時間ごとに糸を切っており、クモが巣の見回りを始めると後ろに下がることも明らかになった。(参考記事:「800メートルの巨大クモの巣見つかる、米国」

 エバーハード氏もモーティマー氏も、研究室と野外での観察に基づいて確かな結果を出した今回の研究を「説得力がある」と見る。モーティマー氏はEメールの中で、クモは巣に触れる物の動きを感じ取るのに非常に長けているにもかかわらず、アサシンバグは振動という「足音」をうまく消しており、「単に『糸を切る行為』のように安易な分類はできません」と語った。

 クモに近づくことに成功したアサシンバグが針のような口吻を突き刺すと、クモは体を震わせる。ソリー氏によれば、おそらく毒を注射しているらしい。そしてクモは屈辱的な死を遂げるのである。(参考記事:「自らを飾る驚異の装飾系動物6選」

文=Traci Watson/訳=高野夏美

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