インドネシアの野焼きの環境被害を算出

CO2排出量は膨大、国外の大気も汚す「人災」

2016.08.05
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2015年9月24日、NASAの衛星「テラ」搭載の中分解能撮像分光放射計(MODIS)による画像。乾期に発生した広範囲な火災による煙がインドネシアの空を覆っている。赤い点は、センサーが高温を検知した火災発生場所。(PHOTOGRAPH BY NASA EARTH OBSERVATORY)
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 2015年、火災により立ち上った煙が赤道沿いに地球を約半周し、東アフリカから太平洋の日付変更線までを2カ月にわたって覆った。

 押し寄せた煙の発生源はインドネシア。この年、同国は少なくとも過去15年で最悪の火災に見舞われた。

 この煙害に関する新たな研究結果が、このほど科学誌「米国科学アカデミー紀要」に掲載された。それによると、NASAの衛星から確認されたこの煙の帯は、気候や健康に広く及ぼす現象だという。(参考記事:「山火事の煙害が広域化、死者は年間34万」

 インドネシアでは、乾期の野焼きが広く行われている。農業や木材の伐採で出る廃棄物を処理するのに、最も安価かつ効率的な方法だからだ。しかし2015年のように、エルニーニョ現象が起きてひどく乾燥した年には、インドネシアの低湿地の地中にある泥炭層にまで火が達することがある。(参考記事:「焼かれる生息地、オランウータンの窮状」

 今回発表された論文の筆頭著者である気候科学者ロバート・フィールド氏は、「乾燥が著しい場合、地表についた火は地中にも及びます」と話す。「こうなると無尽蔵の燃料があるので、雨期にモンスーンが戻ってくるまで燃え続けるのです」

 泥炭層には大量の炭素が貯蔵されているため、燃えると排出される二酸化炭素も膨大になる。フィールド氏らは、2015年の火災で大気中に排出された二酸化炭素をおよそ15億トンと推定。これは2013年に日本が化石燃料によって排出した二酸化炭素量よりも多く、インドよりは少ないという量だ。(参考記事:「インドネシア、バイオ燃料生産と森林保護を両立」

 火災の影響は炭素の排出にとどまらない。大気汚染によりインドネシアの内外で健康被害をもたらしている。インドネシアでは何百万という人々が有害なレベルの大気にさらされているほか、煙はさらに風に乗り、隣国のシンガポールやマレーシアにも届いた。

煙害に歯止めはかかるか

 今回の研究には関わっていない土地利用の研究者ミリアム・マーリア氏によると、泥炭火災によって微小な粒子状物質が空気中に放出されるという。この粒子状物質が人の肺に入り込むと、深刻な健康被害が起こり得る。そうした重大な被害を考えれば、野焼きを減らす動機は十分ありそうに思える。しかし、解決への道のりはそう単純ではないとマーリア氏は言う。

 インドネシア農村部の土地利用は複雑で、無秩序に行われている。産業利用の土地、小規模な田畑、木材の伐採地などがモザイクのように入り組んでいる。理論武装したとしても、経済的に実現可能な代替案が出されるまでは野焼きが続けられるだろうとマーリア氏は考えている。(参考記事:「石油開発に揺れる熱帯雨林」

今後の対策の一助に

 インドネシアの火災問題を研究するにあたり、重要な情報源になるのが人工衛星だ。地上と衛星からの情報を使って火災データを集める北米と異なり、インドネシアは専ら衛星での観測に頼っている。

 今回、研究チームはNASAの地球観測システムが集めた2000年代初頭以降のデータを検討。空港で長期にわたり記録された視程の情報も、火災による煙害の影響を受けていると考え、衛星データの補完として用いた。

 これらの記録が明らかにしたのは、広範囲に広がる煙の姿だけではなかった。将来の火災対策を取る上で重要な傾向が浮かび上がったのだ。

 特に火災の被害が大きかった2006年と2015年を含めた15年分のデータを分析した結果、乾期の平均降水量が1日当たり6ミリを上回ると、火災も大気汚染もほとんど発生しないことが判明。降水量が減ると火災も増えていき、1日当たり4ミリの閾値を下回ると、火災と大気汚染がいずれも急増していた。

 エルニーニョ現象が乾燥の原因になり得ることから、フィールド氏は今回把握できた傾向をもとに、今後起こり得る大火災の予防に貢献できればと願っている。火災が起これば、野焼きされた土地は地中で炎が広がる地獄となってしまう。

「このような火災はあらゆる意味で人災であり、偶然ではなく意図的に起こされています。人間が解決できる問題なのです」とフィールド氏は強調した。(参考記事:「カリフォルニア山火事、95%は人為的」

文=Aaron Sidder/訳=高野夏美

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