【動画】女性の頭部からゴキブリを除去(解説は英語です)

 インドで、女性の頭部から生きたゴキブリが取り出されたというニュースがネットの世界を震撼させている。厳密にいうと、ゴキブリは女性の鼻の穴から入り込み、目と目の間に挟まっていた。

 公開された動画には、ピンク色の皮膚の間に挟まって足をばたつかせていたゴキブリが、生きたままつまみ出される様子がとらえられている。ゴキブリは、睡眠中に女性の鼻に入り込んだという。

 インドの町チェンナイにあるスタンリー医科大学病院のM・N・シャンカル氏は、ナショナル ジオグラフィックへのメールで、動画を撮影したのは自分であると証言した。動画を見る限り、女性に降りかかった不運は本物のようだ。

【動画】つぶしてもたたいても死なないゴキブリ
3mmの隙間をすり抜け、1秒間に体長の50倍の距離を走り抜け、体重の900倍の重さに耐える。(解説は英語です)

 まるで悪夢のような話だが、一体どんな虫が人間の体内に入り込むのだろうか。いや、それよりも気になるのは、どこから入り込むのか。自分にも起こりうることなのだろうか。好奇心旺盛な読者のために調べてみた。

耳垢はエサ

 人間の体内に入り込む虫でも、特に多いのがゴキブリだ。南アフリカのある病院では、2年間で24匹の虫を人間の耳から取り出したという。そのうち10匹はチャバネゴキブリだった。また、8匹がハエ、3匹が甲虫類、そしてマダニ、サシガメ、つぶれたガがそれぞれ1匹ずつだった。

 1985年の医学誌『New England Journal of Medicine』には、両耳にゴキブリが入って緊急治療室を訪れたという患者のケースが報告されている。麻酔剤をスプレーすると、そのうちの1匹が「勢いよく飛び出し、逃げ出そうとした」という。

「耳にゴキブリが入るというのは、それほど珍しいことでもないんです」と、米ノースカロライナ州立大学の昆虫学者コービー・シャール氏はいう。「でも鼻に入るというのは珍しいです」

 なぜゴキブリがそんなに多いのか。「どこででも食べ物を探し回っていますから。耳垢も、やつらにとってはごちそうになるんでしょう」

 耳垢の中にいる細菌は、揮発性脂肪酸という物質を作り出す。これは肉の発する物質と同じもので、「それにつられたゴキブリが耳に入り込んで、中で身動きが取れなくなってしまうんです」と、シャール氏。鼻の分泌物も、やはり夜中に食べ物を探し回っているゴキブリにはごちそうに見えるのかもしれない。(参考記事:「戦士か恋人か、戦略「選ぶ」ゴキブリを発見」

体内で生き延びる

 耳に入るとはいっても、ゴキブリは寄生虫とは違う。「別に人間の上を這いまわるのが好きなわけではありません。特に、人間が起きている間は近寄ろうとしません」と、シャール氏は付け加えた。そのため、侵入は必ずといっていいほど人が眠っている間に起こる。(参考記事:「不思議でふしぎな寄生生物“勝手にベスト5”」

 また、体内に入り込むのは小さなゴキブリだけだ。インドの動画のゴキブリは大きいように見えるが、シャール氏は一目見て子どものゴキブリだと分かったという。家の中に出るワモンゴキブリの一種である。

人間の穴から体内へ入り込む虫の中でも特に多いのが、チャバネゴキブリだ。(Photograph by Nigel Cattlin, Alamy)
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 小さいので、鼻腔のかなり奥深くまで入ることができたのだろうと、シャール氏はいう。鼻の中は意外とゆとりがあり、目の間から頬骨まで広がっていて、空気もあるので、しばらくの間虫は生きていられる。

 どれくらい生存できるかはわからないが、せめて救急室へ行って取り出してもらうまでは生きていてもらったほうが、人間にとってはありがたいのだ。その身の毛がよだつような理由は後で述べるとする。

あらゆる穴から侵入

 鼻の中のゴキブリというのは、そこまでおぞましくないのかもしれない。というのも、ヒルの中には、目、膣、尿道、肛門など人間の体のありとあらゆる穴から侵入しようとするものもいる。

 2010年に、特大の歯を持ったとりわけ気色悪いヒルがペルーで見つかり、ティラノブデラ・レックス(Tyranobdella rex、T. rex)と名付けられた。今のところ鼻腔の中でのみ発見されているが(これがかなり痛いという話だ)、これと似た種が他の開口部から体内に入り込んだという報告もあるので、T. rexが同じ侵入経路をたどる日も近いかもしれない。そうなったとしても、できれば動画で見るのは遠慮したい。(参考記事:「ヒトの体内に食い入る“ヒルの暴君”」

ヒルの一種T. rexは特大の歯を持っている。普段は隠しているが(この写真には写っていない)、皮膚に食い込む時に現れる。(PHOTOGRAPH COURTESY PLOS ONE)
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 寄生虫以外に、人間の腸へ入ってみようという勇気ある生物は少ない。だが、ハエはその点選り好みをせず、時に体内へ侵入して卵を産み付けることがある。そして孵化したウジ虫は、人間の肉を食べる。それほど珍しいことでもない証拠に、『ハエウジ症』という病名までつけられている。昔から症例はあり、目や直腸で見つかったという報告もある。中でも特に克明な記録が残されているのは1783年のジャマイカでの一件で、外科医は患者の鼻からウジ虫を取り除こうとして、ラム酒から粉末の水銀まであらゆるものを鼻の中に噴射したという。

 また、52歳の米国人女性が定期検診で内視鏡検査を受けていた際に、結腸の中からゴキブリが発見されたという報告もある。彼女の自宅にはゴキブリが大量発生していたため、医師は患者が何かの拍子にそのうちの1匹を丸呑みしてしまったのだろうと考えている。内視鏡検査では他にもアリやテントウムシ、スズメバチが見つかった例がある。

恐ろしい? でも冷静に

 ここまで読んでパニックを起こしかけている読者がいるかもしれないが、ご安心あれ。万が一鼻や耳に虫が入り込んだとしても、最悪の場合感染症を起こすだけで済むことがほとんどだ(ごくまれに、感染症が鼻から脳におよぶことも無きにしもあらずだが)。

 ゴキブリは不潔で雑菌まみれという印象があるが、実は常に体の手入れを怠らない生きものなのだと、シャール氏はいう。最も危険なのは、取り除こうとするときにつぶしてしまうことだ。そうすると、虫の体内の細菌が流れ出し、感染症を起こす恐れがある。(参考記事:「寄生バチ、宿主のゴキブリを抗菌消毒」

 また、世界のほとんどの地域では、目が覚めてみたら虫が体内に入り込んでいたなどという事態はまず起こらない。報告例が多いのは、虫が多い熱帯地方や、家に虫が大量にすみついているような場合である。

 最後に、インターネットにはびこる衝撃ニュースをすべて鵜呑みにしてはいけない。「人間の皮膚の中をクモが這っているという偽動画を散々見ましたよ」と、米パデュー大学の昆虫学者グウェン・ピアソン氏はいう。

 虫垂炎の手術痕からクモが入り込んだという嘘の報道もあったが、そもそもクモは傷口に入り込むことはしないし、皮膚の中を這い回ることももちろん不可能である。

 体内への虫の侵入を防ぐには、まず家の中に虫を発生させないことだ。食べ物を放置せずに適切な方法で保管し、また寝室に食べ物を持ち込まないことだ。

「虫は、私たちの身の回りに普通に存在します。それでまったくOKなのです」と、ピアソン氏は語った。(参考記事:「カマドウマの心を操る寄生虫ハリガネムシの謎に迫る」

文=Erika Engelhaupt/訳=ルーバー荒井ハンナ