【動画】ウが海中に潜り、ジンベエザメの体からコバンザメをむしり取った(解説は英語です)

 世界最大の魚にくっついていれば安全だろうと、このコバンザメは思ったかもしれない。だが、それは間違いだった。

 メキシコ、バハカリフォルニア半島沖で出会った光景に、ダイバーたちは目を奪われた。海に飛び込んできた鳥のウ(鵜)が、ジンベエザメに張り付いていたコバンザメをはぎ取ったのだ。地元のダイビング会社「マンタ・スキューバダイビング」がこの映像を撮ったのは2011年だが、最近になってフェイスブックで再び注目を集めた。

「ジンベエザメを25年研究してきました。何千回も一緒に泳いでいますが、こんな場面は今まで見たことがありません」と、ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラーで、ジンベエザメを研究するブラッド・ノーマン氏は言う。(参考記事:「動物大図鑑 ジンベエザメ」

 コバンザメは大型の海中生物につきまとい、餌のおこぼれを食べて暮らしている。ふんが主食とみられるものもいるくらいだ。それどころか、サメやクジラ、カメ、ジュゴンなどに便乗する生活をあまりに長く続けてきたため、頭上の背びれの位置に強力な吸盤が発達している。

 だが、ウがジンベエザメからコバンザメをかっさらうところは、誰も見たことがなかった。

コバンザメは友か、敵か?

 野生では、誰もが最後は誰かに食べられる。そして動物は、好機さえあれば新しい獲物にありつこうとする。

 例えばウは、かぎ形のくちばしと、水かきのついた大きな足で、水中に潜って魚を捕れる。13階建てのビルの高さに相当する水深まで、一気に潜るところを目撃されたウもいるほどだ。(参考記事:「ヒメウの50メートル潜水をビデオ撮影」

 だが、この動画を見ると興味深い疑問も湧いてくる。コバンザメのような取り巻きの生物がいなくなるのは、ジンベエザメにとって得なのだろうか?(参考記事:「写真:ジンベエザメに飲み込まれそうなコバンザメ」

 オーストラリア海洋科学研究所の研究員、マーク・ミーカン氏は、コバンザメが張りつくことで、くっつかれる側の宿主が水中を進むときの抵抗がどれだけ大きくなるのかを同僚たちと測定している。ちょうど、自動車の形が空気力学にどう影響するかを調べるようなものだ。

 体長12メートルのジンベエザメに、コバンザメが1匹や2匹くっついても、泳ぐ速度が落ちることは考えにくいとミーカン氏は言う。だが、コバンザメがどんどん増えていくと、大きな負担になるかもしれない。時には、100匹以上ものコバンザメが1匹のサメにぴったりくっついていることもある。

「ジンベエザメは、エネルギーの点ではかなり不安定な状態で生きていると考えなくてはなりません」とミーカン氏は話す。小さなエネルギー1つ1つが影響するためだ。

 一方ノーマン氏は、逆の可能性もあるかもしれないと話す。コバンザメはジンベエザメにとって有益かもしれないというのだ。というのも、コバンザメは、カイアシ類と呼ばれる微小な甲殻類や、その他の寄生虫を食べることで、サメの皮膚をきれいに保っていると考えられるからだ。

「サメはコバンザメを連れていることで、本当は得をしているのではないかと思うことがあります」とノーマン氏は言う。

「自然にはいつも驚かされる」

 今のところ、ウが見せた新しい摂食行動がどれくらい広く行われているのかはわからない。メキシコの1個体の単なる気まぐれかもしれない。しかしミーカン氏は、この映像はもっと一般的な現象かもしれないと考えている。(参考記事:「眼前で激写! 人懐こいクジラのすむ海、メキシコ」

 例えば、浅瀬にすむメジロザメは、ときどきコバンザメを襲うことがわかっているとミーカン氏は話す。彼が見たことのある仏領ポリネシアで撮られた映像では、ジンベエザメが頭を上、尾を下に向ける「クリーニング体勢」を取っていた。そこへメジロザメが群がって、コバンザメを次々と襲ってくれるよう仕向けているかのようだったという。

 ひょっとすると、ジンベエザメは日常的に自分の体をクリーニングさせているのかもしれない。

「大事なのは、ジンベエザメは海面近くに来る必要はないということです。えらで呼吸していますから」とミーカン氏。「ジンベエザメは、常にきれいな状態でいるために浅瀬に来ているのかもしれません。同じことは深い海や、単に人が潜らない場所でも起こっているのです」

「ジンベエザメは海で最も大きな魚ですが、まだ研究中のことがたくさんあります」とノーマン氏は話す。「話題の動画も、自然にはいつも驚かされるという例の1つにすぎません」(参考記事:「ジンベエザメが小型化と研究報告」

文=Jason Bittel/訳=高野夏美