【動画】51年間続く伝統、スウェーデンのイェヴレのヤギ。(解説は英語です)

「イェヴレのヤギは、いつも危険にさらされています。でも今年は生き延びてほしいと、とにかく願っています」

 そう話すマリア・ワルベルク氏は、ヤギの制作を監督する委員会の広報を担当している。イェヴレのヤギとは、スウェーデンの町イェヴレで1966年から毎年制作されている高さ約13メートル、重さ約3トンのわらでできたヤギのことだ。例年どおりなら、イェヴレのヤギが燃やされる可能性は五分五分だ。棒で貫かれたり、車に衝突されることもある。(参考記事:「ブルガリアの伝統息づく国際仮装大会11点」

 というのも、イェヴレのヤギを壊すのは、作るのと同じくらい恒例になってしまっているからだ。過去51年間、町の住人たちは、放火犯が勝つかどうかを注意深く見守ってきた。

「最初のヤギが燃やされていなければ、こうはなっていなかったかもしれません」とワルベルク氏は話す。

 毎年12月になると、町の人々は膨大な手間をかけて、ロープやマツの木など「可燃性の」素材を使ってヤギを制作する。キリスト教の祝日である降臨節に合わせて作られ、(生き延びることができれば)元日に解体される。今年の降臨節は12月3日だった。

 わらで作ったヤギの飾りは「ユール・ゴート」と呼ばれ、北欧のクリスマスでおなじみのモチーフになっている。イェヴレのわらのヤギもそれを大きくしたものだ。なぜヤギとクリスマスがこれほど密接につながっているのかはさまざまに議論されているが、もともとはキリスト教以前の祝祭に由来する。(参考記事:「クリスマスの悪魔、クランプスの起源」

 1966年以降、新年まで生き延びたイェヴレのヤギは、わずか25頭だけ。記念すべき50頭目のイェヴレのヤギとなった昨年は、完成後24時間も経たないうちに燃やされた。

目撃者は語る

 ヨセフィン・ノルドバル氏が経営するランジェリーショップは、ヤギが設置される広場から数百メートルほどの場所にある。毎朝店を開けに行く道すがらこのヤギを見ると、特別なクリスマスの気配を感じるという。

 昨年、ヤギが燃やされた夜、ノルドバル氏は近所の友人宅にいたが、帰りに店に立ち寄ることにした。そして広場にやってきて目にしたのは、燃えているヤギだった。巨大なわらのヤギは、渦巻く煙をあげながら赤々と燃えていた。わらが完全に燃え尽きたあとには、むき出しになった骨格だけが残された。

 ノルドバル氏は、いつもヤギが燃やされることについて、「ひどいことです」と語る。「子どもたちはみんな悲しみます。町中が悲しくなるのです」

放火犯は誰だ?

 放火犯は年によって異なる。

 イェヴレの住人で、広場でクリスマス・キャロルを演奏しているオーブ・ローゼン氏は、「ヤギ燃やし犯に決まった型はありません」と言う。「夜、パブに寄ってから歩いて家に帰る酔っぱらいにとっては、格好のターゲットになります」

 ノルドバル氏も、「ある年は、サンタとジンジャーブレッドマンに仮装した者でした」と話す。(参考記事:「サンタの歴史:聖ニコラウスが今の姿になるまで」

 ローゼン氏によると、いつもヤギが燃やされることが広まるに連れて、過激な説も飛び交うようになっているという。「住民の中には、毎年ヤギを燃やす計画を立てている秘密組織があるという噂まであります」

 ワルベルク氏は、「計画されていることもあれば、夜に帰宅途中の酔っぱらいが、思いつきで燃やしてしまうこともあるのでしょう」と言う。

 今年は、ヤギを守るために警備を強化しているとワルベルク氏は話す。ヤギの警備にあたっているのは、スウェーデンで犯罪者の社会復帰に取り組んでいるX-consというグループだ。大きな囲いも作られており、ウェブカメラが24時間ライブ監視している。

 今のところ、イェヴレのヤギはまだ健在だ。しかし、ワルベルク氏によれば、たとえまた燃やされたとしても、2018年もこの伝統は続ける予定だという。「世界的に有名なクリスマスのシンボル作りをやめることは、絶対にありません」(参考記事:「クリスマスの歴史とトリビア」

文=Sarah Gibbens/訳=鈴木和博