【解説】火星に複雑な有機物を発見、生命の材料か

有機物の証拠となる2本の論文、火星生命探査が前進

2018.06.11
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かつて表面に水が流れていたと思われる河床に沿って並ぶ火星の岩石。(PHOTOGRAPH BY NASA)
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火星は呼吸している

 キュリオシティは、過去の有機物だけでなく、現在の火星を漂う有機物の匂いも嗅ぎつけた。冒頭の論文と同じ、6月8日付け『サイエンス』誌に発表された最新の研究は、火星が季節ごとにメタンを「呼吸」していることを示している。メタンは、最も単純な有機分子である。

 現在の火星にメタンがあるのは不思議なことだ。メタンは数百年しか存在できないので、現在の火星で検出されたということは、火星がメタンを補給しつづけていることを意味する。今回の論文の著者で、NASAのジェット推進研究所の科学者であるクリス・ウェブスター氏は、「メタンは火星の大気中にあるはずのないガスなのです」と言う。

 研究者たちは2009年に、火星から数千トンのメタンがランダムに噴出していると報告していたほか、2014年末にはキュリオシティからのデータを調べた研究者が、火星の大気中にメタンが含まれていることを示していた。(参考記事:「火星の「メタンガス噴出」は的外れ?」

 今回のウェブスター氏の研究によると、火星に夏がくるたびに大気中のメタン濃度が約0.6ppb(1ppbは10億分の1)まで上昇し、冬になると、その3分の1の0.2ppbまで低下することが判明した。アイゲンブロード氏は、「地球の大気中にある分子の多くには季節変動がありません。化学成分に季節変動のある惑星なんて、まさに別世界のような話です」と言う。

 ウェブスター氏らは、火星のメタンは地下の深いところで発生していて、表面温度の変動によって立ちのぼってくるのではないかと考えている。冬の間は、ガスはクラスレート(結晶内の分子が作る微小な空間にほかの分子を取り込んでできた化合物)として地下の凍った結晶中に閉じ込められていて、夏になるとこれが解け、解放されるというのだ。(参考記事:「冥王星にメタンの砂丘を発見、なぜ驚き?」

 では、メタンはどのようにしてできたのか? 答えは不明だ。

 ゴダード宇宙飛行センターの科学者で、火星から立ちのぼるメタンを発見したマイケル・ムンマ氏は、「私たちが今日見ているメタンが、現在の蛇紋岩化作用(鉄を含む岩石と液体の水との間で起こる化学反応)の産物なのか、それとも、ある程度深いところで微生物の活動によってできたものなのかはわかりません」と言う。「もしかすると、大昔から蓄えられてきたものが徐々に放出されているのかもしれません」(参考記事:「海底下1万mに生命か、深海の火山から有機物」

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