【動画】「歩く魚」を撮影、種は不明

インドネシア、バリ島沖の海底をチョコチョコと

2017.06.07
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【動画】海底を歩く魚が撮影された(解説は英語です)

 インドネシアのバリ島沖で夜のダイビングを楽しんでいたフランス人料理家のエメリック・ベンハラッサ氏が、奇妙なものを目撃した。

 1匹の魚が、海底を2本の「足」で歩いていたのだ。

 それは見たところ、魚の中でも特に恐ろしい毒を持つオコゼの仲間のように思えた。(参考記事:「ツノカサゴ、東インド諸島の新種魚」

「あの魚はおそらく、照明に引かれて私に近寄ってきたのでしょう」とベンハラッサ氏は言う。「風変わりでかわいらしく、動画をネットに上げたら喜ばれそうだと思いました」

 動画を見た学者らは、この奇妙な生物はベンハラッサ氏が言うとおり、ヒメオコゼ属(Minous)の1種だと述べている。(参考記事:「初の本格調査、南太平洋の“陸生”魚」

「ヒメオコゼの背棘の根元には毒腺があり、この棘が人間の肌に刺さると傷口から毒が注入されます」と、米スミソニアン国立自然史博物館のコレクションマネージャーで魚類学者のジェフ・ウィリアムズ氏は言う。

 言うまでもなく、ヒメオコゼに本当に足があるわけではない。足のように見えたのは、実際には胸びれの一部が進化の過程で分離したものだ。鹿児島大学総合研究博物館の魚類分類学者、本村浩之氏によると、ヒメオコゼの仲間はこうした「胸びれ遊離軟条」を使って、泥の中にいる虫や甲殻類を探しているのだという。(参考記事:「『退化』は進化の一環、新たな力を得た動物たち」

 ただし動画に映っている魚がなんという種なのかについては、学者たちにもはっきりとしたことはわからない。実物を手に取ってみないことには、近しい関係にある種を見分けることは非常に難しいというのがその理由のひとつだ。

歩く魚の正体は

 ウィリアムズ氏は、この魚はストライプトスティングフィッシュ(学名:Minous trachycephalus)ではないかとみている。

 一方、カンザス大学生物多様性研究所の魚類学者W・レオ・スミス氏は、尾の色が薄いことを根拠に、この意見に異を唱える。

【動画】世界一奇妙な魚、ヌタウナギ。(解説は英語です)

「M. trachycephalusであれば、尾が暗い色と明るい色の縞模様になっているはずです」。スミス氏はそう指摘し、この魚はペインテッドスティンガー(Minous pictus)と推測している。「どちらも同じように体がずんぐりとしていて、色も似ているのですが、これは尾の色が薄いので、M. pictusだと思います」(参考記事:「豪州の新種:ピンクハンドフィッシュ」

 カリフォルニア科学アカデミーの魚類学研究員スチュアート・ポス氏は、上記のどちらの種であってもおかしくないとした上で、さらに別の候補を挙げている。Minous quincarinatus、和名で「イトオコゼ」と呼ばれる魚だ。

 当然ながら、この魚が、これまで知られていなかったまったく新しい種であるという可能性もあり、本村氏の意見はこれだ。本村氏は、研究室の学生である安藤ゆきの氏とともに新種の記載に取り組んでいるが、この魚もそうした種のひとつかもしれない。「新種を記載できるのは非常に幸運なことです」と本村氏は言う。(参考記事:「深海で「悪夢のような」新種のアンコウを発見」

悪魔の魚

 ベンハラッサ氏が撮影した動画のオコゼはとても目立って見えるが、実はこの魚は1日の大半を泥の中に潜って過ごすため、ダイバーの目に止まることが少ない。行動や生態についてもよくわかっていない。(参考記事:「陸に出た最初の魚、足のような強いヒレ」

 オコゼはエビ漁の網にかかって引き上げられることが多く、アジアでは料理に使われることもあり、本村氏によると、「味がよく、日本では高い値がつく」という。

 一方でこの魚は、東南アジアでは悪魔だと考えられており、網にかかっても海に戻されることが多いのだそうだ。目撃されることが少ないため、動画はオコゼの生態の謎を解くための貴重な情報源となる。

 ベンハラッサ氏は、今後もダイビングを続けてきたいと語る。「海の中では、たくさんの新しい発見に出会えますから」

文=Jason Bittel/訳=北村京子

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