27年一度も人と接触せず、ある森の「隠者」の真相

謎の窃盗犯はなぜ世を捨てたのか、そこに教訓はあるのか、米メイン州

2017.04.12
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メイン州ローム近くの深い森にあるナイトの野営地から運び出した荷を車から降ろす捜査官。(PHOTOGRAPH BY ROBERT F. BUKATY, AP)
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――彼は最終的に、どのように逮捕されたのでしょうか。

 ナイトは、周辺の町の人々にとって伝説の存在となっていました。27年にわたって誰かが別荘から物を盗み続けているというのに、その犯人が男なのか女なのか、愉快犯なのか殺人者なのか、誰にもわからなかったからです。人々はこの謎の窃盗犯のことを「北の池の隠者(North Pond Hermit)」と呼ぶようになりました。最後はテリー・ヒューズという猟区監督官が、この騒ぎに決着を付けようと決意し、監視カメラを仕掛けて隠者を捕らえることに成功しました。

 しかし、事実は小説より奇なり。そこで明らかになったのは、30年近くも森の中にたったひとりで暮らしていた男が、1000件もの窃盗を自白した一方で、武器を持ったことも、人を傷つけたことも一度もないということでした。彼をどう扱うべきなのか、誰もが戸惑いました。

 逮捕された後、ナイトはヒューズ監督官を野営地まで案内しました。森の中を歩いているとき、監督官は目の前の男が森の中を進んでいく様子に思わず目を見張りました。まるでネコのように静かに、素早く、優雅に、そして器用に移動していたと言います。

 ナイトはガラスを割ったり、ドアを破ったりといったことは一切せず、巧みに錠を開けて、本、懐中電灯、食料、時には衣服などを盗みました。しかし別荘を出ていくときには、ドアのかけ金を忘れずにかけておきました。

――ナイトが繰り返し盗みに入った夏用コテージの所有者のひとりは、彼に大切な場所を台無しにされたと訴えています。ナイトはこの件で有罪判決を受けていますね。

 私はナイトに対して同情的な気持ちを抱いています。しかし忘れてはならないのは、彼が盗んだのがハンバーガーや懐中電灯といったモノだけではないということです。彼は人々から、心の平穏や安心感といった、値段の付けられないものを奪いました。彼は高潔なヒーローではありません。それでも私は、隠者に付随するロマンチックな概念と、連続窃盗犯との間にある謎の部分が、この話に深みと複雑さを与えていると感じています。(参考記事:「テキサスの奇妙な法律」

 ナイトに対する人々の反応はさまざまです。別荘に盗みに入られた人々の中には、ナイトは残りの人生を刑務所で過ごし、自分たちが味わった苦しみに対する罰を受けるべきだと考える人もいました。また別の被害者は、結局のところナイトは、ときどき家に入ってくるハエみたいなものだったと言っていました。私は徐々にこう思うようになりました。誰かがナイトに対して抱く印象からは、ナイトの一面が見えてくるけれど、同時にそれは、その人自身の一面も表しているのだ、と。

――彼がなぜ社会を離れたのか、その理由は理解できましたか。この物語からあなたは何を学んだのでしょうか。

 我々は人生に何を求めているのでしょう。充足感、自由、それとも幸福の追求でしょうか。ナイトはおそらく単純に、しかも心の底から、他人と一緒にいることが嫌で、森の中なら充足感を得られると考えたのでしょう。そうした暮らしをいつまで続けられるかはわからなかったとしても、彼はそこで探していたものを見つけたのです。冬の寒さは厳しくとも、彼は満たされた気持ちになり、喜びを感じていました。

 ナイトが社会を離れたのは、この世界に居場所がなかったからです。ナイトは非常に聡明でありながら、社会に適応できなかった人物です。彼に少しの土地と食料を与えて、静かに暮らせるようにしてあげることはできないだろうかと言う人もいます。

 私はときどき、例えば車を運転していて、後部座席では3人の子供が喧嘩をし、約束の時間には遅れそうで、渋滞は動かず、ラジオが嫌なニュースをがなりたてているようなときに、こんな強烈な思いにかられます。おかしいのはナイトではなく、私たちの方なのではないかと。なぜナイトが社会を離れたのかではなく、なぜ我々はそうしないのかと問うべきなのかもしれません。

文=Simon Worrall/訳=北村京子

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