世界初、立って漕ぐ小舟で大西洋単独横断に成功

特注パドルボードで93日間、7500キロ、漕いだ回数は200万回

2017.03.15
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2017年3月9日アンティグア島イングリッシュハーバーに着いたクリス・バーティッシュ氏。成功を祝す炎が燃えている。約7500キロを漕いで到着した。(Photograph by Brian Overfelt, The Sup Crossing)
[画像のクリックで拡大表示]

 93日間、7500キロ、漕いだ回数はおよそ200万回。これが南アフリカのクリス・バーティッシュ氏が、スタンドアップパドルボードに乗って大西洋横断に成功した際の記録だ。スタンドアップパドルボード(SUP)とは、サーフボードに似たボードに立って乗り、パドルで漕いで進むスポーツだ。(参考記事:「再生プラスチック船、太平洋横断に成功」

「自分の実力以上の情熱と決意に駆られた、まったくとんでもない航海でした。でも、その熱意のおかげで毎日いろいろなことを乗り切ることができたんです」と、彼はナショナル ジオグラフィックの取材にスカイプで答えてくれた。

 モロッコ沿岸を出発してから93日後にカリブ海のアンティグア島イングリッシュハーバーに着いたときのバーティッシュ氏は、げっそりしており、ボードの上に立っているのもやっとだった。彼のフェイスブックによると、天候や体力の消耗と闘った最後の72時間が最もつらかったという。

 出発から約3カ月にわたり、フリーズドライの保存食で食いつないだ。波をかぶって沈没を恐れることもあれば、サメが近づいてきてパドルボードに食いつくことも幾度もあったそうだ。「ありとあらゆるものを見ました」とバーティッシュ氏は言う。「見てみたい動物も、出会いたくない動物も、全部見ました」(参考記事:「【動画】ビーチでホホジロザメに囲まれた!」「【動画】サメやクジラも結集!『世界最大の魚群』」

毎日12~15時間漕ぎ続ける

 ひげが伸び、日に焼けたバーティッシュ氏は取材中、映像に映る自分のむさくるしい姿を詫びた。だが、ひげを生やしていたおかげで、外海の悪天候を生き延びることができたという。ゴールに近づくと、友人や家族が励ましながら迎えてくれた。

 旅は苦労続きだったと言う。非情な貿易風が吹いているせいで、旅は思うようにはかどらなかったが、くたくたになりながらも毎日12~15時間漕ぎ続けたそうだ。(参考記事:「温暖化の熱の一部は海中に潜んでいる?」

「旅を続ける上できつかったのは、忍耐力以上のものが要求された点です。悪天候を乗り切り、自分の精神状態をコントロールしなければなりませんでした。器具が故障しても、頼れるのは自分しかいなかったんです」

 旅の間はほとんど、足首まで水に浸かりっぱなしだった。荷物用のキャビンも水をかぶるため、食料がだめになってしまうリスクを冒してでも、ハッチを開けなくてはならなかった。

「常に自分が沈んでいくような感じがしていました」と彼は言う。「2週間おきにハッチを開けて水をかき出さなければならなかったんですけど、そこには食べ物が置いてあったんです。両刃の剣でした」

 この航海の準備には5年かかった。通常使われるパドルボードよりも、かなり頑丈なボードが必要だったからだ。特注で作ったボードの長さは6メートル、重さは600キログラム弱。重そうに感じるが、バーティッシュ氏によると、今回のような横断を果たした船のなかで最も軽いという。「軽すぎたのかもしれません。外海に出ると、コルクのようにくるくると回って翻弄されますから」

次ページ:10センチ下は海、トラブルも続々

  • このエントリーをはてなブックマークに追加