森の部族に身を捧げた男、二度と帰ってこなかった

ボルネオ島の先住民にほれこみ、助けようとした男の数奇な人生

2018.03.13
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ボルネオ島のパーム農園。パーム油を作るために森林伐採がかなり進行している様子が見て取れる。(PHOTOGRAPH BY RICHARD PARSONS, ALAMY)

――マンサー氏は最終的には警察から追われる身となり、同時に世界のメディアで取り上げられるスターになりました。当時のマンサー氏の生活と、2000年に起こった失踪について教えてください。

 ブルーノは、マレーシアで最も有名な手配犯となりました。マレーシアの人々にとって、彼はプナン族関係のトラブルの象徴であるだけでなく、「白人王の帰還」を具現化した存在だったのです。彼は2度逮捕され、2度とも砲弾が飛び交う中を脱出しました。その頃ヨーロッパでは、プナン族救済の運動が拡大しつつありました。(参考記事:「ロヒンギャ危機Q&A、スー・チー氏なぜ動かぬ?」

 ブルーノの親友が、彼を連れ戻すためにボルネオに向かい、彼は偽造文書と変装を駆使してこれに成功しました。人々の前に現れたブルーノは、いかにも白人が思い描くジャングルの男といった姿だったため、ターザンのようにもてはやされました。人々はプナン族よりも、むしろブルーノの方に興味を持ち始めました。吹き矢で狩りをし、腰布を巻いている一方で、夕食会で完璧なスイスドイツ語を話す彼のことを、まるでイエス・キリストのようだと言う人もいたほどです。

 危ういところを助け出されたというのに、ブルーノはときどきこっそりとボルネオに戻るようになりました。それからの10年間、彼はサラワクの森林伐採を止めるために、ハンガーストライキを行うなど過激な活動を続けましたが、彼の努力が実ることはありませんでした。その現実が、彼の精神を蝕んでいきました。2000年にボルネオに向かったとき、彼は奇妙なメモを残していき、誰もが彼はもう戻ってこないのだと感じました。(参考記事:「オランウータン 樹上の危うい未来」

 彼の支持者や家族は、ブルーノがマレーシア政府に雇われた警備員や森林伐採者に殺されたのだと信じたがっています。しかしおそらく、彼は自殺をしたというのが現実でしょう。ただし首をつったり、手首を切ったりといった手段をとったわけではなく、生きるか死ぬかのギリギリの状態で暮らしていたのだと思います。彼は森の奥深くに入っていき、二度と出てきませんでした。

ギャラリー:森の部族に身を捧げた男 写真7点(画像クリックでギャラリーページへ)
村の外に立ってあたりに目を光らせるプナン族の族長。2009年8月20日、マレーシア、サラワク州にて。(PHOTOGRAPH BY SAEED KHAN, AFP/GETTY)

――『ボルネオ最後の野生の男』は、悲しい雰囲気で幕を閉じます。プナン族は居住区に押し込まれ、マンサー氏は亡くなり、パーミエリ氏は幻滅を味わいます。ボルネオの野生の男たちの時代は終わったのでしょうか。雨林を救うことはまだ可能でしょうか。ナショジオの読者にできることはなんですか。

 マイケルが探検し、マンサーが救いたいと願ったボルネオは、すでにほぼ失われています。かなりの広範囲が、パーム油によって奪われてしまいました。(参考記事:「見つめるオランウータン、2017年グランプリ作品撮影秘話」

 読者の皆さんにできることは、せいぜいパーム油製品を買わないくらいのことでしょう。また、物質は文化よりも重要なのかどうか、自分自身の価値観で考えることが大切です。ただしそうした問題は、白か黒かを明確に判断できるものではありません。今の世代のダヤク族やペナン族は、教育を受け、開発の恩恵を享受しています。私やブルーノのような人間にとって、これは喜ばしいことではありませんが、我々は豊かな西欧の白人です。おそらく我々は、良し悪しを判断できる立場にはないのでしょう。(参考記事:「ジャレド・ダイアモンド 『私が伝統的部族社会から学んだこと』」

文=Simon Worrall/訳=北村京子

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