古代インカの穿頭術、成功率は70%を超えていた

800の頭蓋骨が語る、古代ペルーの驚くべき手術力

2016.07.05
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穴が開けられた頭蓋骨。紀元前3500~3400年に生きていた若い男性のもの。(PHOTOGRAPH BY PRISMA, UIG/GETTY)
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 医者は簡単な道具を手に取ると、生きた人間の頭蓋骨に穴を開けた。そして砕けていた頭蓋骨のかけらをほとんどきれいに取り除いた――現代のような麻酔や滅菌技術を用いないこの手術で、なんと、患者は回復した。

 思わず身震いするようなこの手術は、古代の医術である穿頭術(トレパネーション)の一例だ。米テュレーン大学の形質人類学者ジョン・ベラーノ氏は古代の穿頭術を徹底調査し、このほど5人の共著者と『Holes in the Head: The Art and Archaeology of Trepanation in Ancient Peru”(頭に開いた穴:古代ペルーの穿頭術の技術と考古学)』を出版した。

 数千年前はヨーロッパや南太平洋でも穿頭術が行われており、アフリカ東部では1990年代まで続けられていた。だが、この治療が最も盛んだったのは、14~16世紀のペルー、つまりインカ帝国だ。その証拠に、この地域で穴の開いた頭蓋骨が数多く見つかっているほか、骨が治癒した跡から手術後の生存率が高かったことがわかってきた。(参考記事:「世界のミイラでわかる古代の病気」

 数十年かけて、穴の開いた頭蓋骨を800以上研究してきたベラーノ氏は、ナショナル ジオグラフィックの取材に応じ、穿頭の技術と科学について見解を語ってくれた。

――古代ペルーで、穿頭術はどれくらい普及していたのですか?

 驚くほど広い範囲で行われていました。全盛期には、インカ帝国のほぼ全域で行われていたのです。インカ帝国で見つかった穴開き頭蓋骨の数は、国外で見つかったものの合計を上回っています。(参考記事:「最初期アメリカ先住民の謎解く骨を発見」

――なぜペルーで穿頭術がそれほど盛んだったのでしょうか?

 世界の多くの地域では、弓矢、剣、やりなどが武器として使われていたのに対し、ペルーでは戦いに投石器やこん棒などが使われていました。そのせいで、頭部の骨折が起こりやすかったのでしょう。弓矢や剣、やりでは、投石やこん棒ほど頭部に傷を負うことはありません。(参考記事:「人類の暴力の先例? 頭蓋骨に殴打跡」

――ペルーの外科医は、なぜこのような大胆な治療を始めたのでしょうか?

 おそらく、打撃を受けた頭皮をきれいに洗って、折れた骨の破片を取り出すといった、ごく単純な処置から始まったのだと思います。その患者は死んでしまったかもしれませんが、これが命を救い得る治療だということに間もなく気付いたのでしょう。穿頭術は、意識を高める神秘的な力を得るために行われたり、純粋に儀式として行われたりしたのではなく、頭部に重傷を負った、特に頭蓋骨を骨折した患者に施されていました。これについては膨大な証拠があります。

――ペルーの穿頭術の生存率には驚きましたか?

 この研究を始めたときには、インカの穿頭術の生存率が高いとは認識していませんでしたが、実際には70%超という高水準でした。最初期の穿頭はペルー南岸のパラカス文化でみられますが、生存率は約40%しかありません。しかし、当時頭に開けられた穴はかなり大きいので、その大きさから考えれば、かなりの数の生存者がいたといえます。なぜ頭蓋骨にこんな大きな穴を開けたのかは今もってわからないのですが、パラカスの例については、シャーマンの試みによる特殊な施術と考えています。

紀元前11~6世紀ごろに、穿頭術に使われていた道具。(PHOTOGRAPH BY MARKUS MATZEL, ULLSTEIN BILD, GETTY)
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――ペルーの穿頭術が、西洋に比べて成功率が高かったのはなぜでしょう。

 西洋では、手術道具は医師が水洗いして拭くだけで、別の患者の手術にも使われていました。また、手術は病院で行われていました。衛生管理の行き届いた現代の病院でさえも、多くの人が病院で感染症にかかります。一方、当時のペルーに病院はありませんでした。手術はおそらく屋外で行われ、手術道具は1回使えば捨てていたのでしょう。そのため、感染症の危険はかなり低かったと考えられます。

――このような手術は、激痛を伴ったのではありませんか?

 頭皮には多くの神経があり、ナイフやかみそりの刃を頭皮に入れれば痛みを感じますが、歯を食いしばれば、耐えられないほどではありません。そして、骨自体には神経はほとんどありません。医師が「今から頭蓋骨を削って穴を開けます。でも痛くはありませんよ」と告げたとしても、嘘とは言えません。

――現代の医学が、古代から学べることはあるのでしょうか?

 機器が大きく変化していますから、外科技術という点では得るものはないでしょう。私が本を書いた目的の1つは、人々への啓発です。穿頭術は原始的な、遅れた医術だという考えは脇に置いて、こうした技術がかつて存在し、生存率の高さからすれば大変な偉業だったと理解することが大切です。

文=Traci Watson/訳=高野夏美

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